2014 Fiscal Year Research-status Report
歳差運動を含む磁性体スピンを活用した光ファイバー上分布型デバイスの開発
Project/Area Number |
25870217
|
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
西林 一彦 東京工業大学, 像情報工学研究所, 講師 (20361181)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 光制御 / 偏波変調 / 磁気光学効果 / 多重分離 |
Outline of Annual Research Achievements |
コア径50μmのマルチモードファイバー・GdFe磁性体から成るハイブリッドファイバーからの出射光における磁気光学(MO)信号の空間パターンの解析を行った結果、磁性膜上に分布する磁化の変調場所を指定することでコア内の多重な光に対してモード選択的に偏波変調信号を加え、それを伝送の後に空間的に多重分離することが可能である事を示した。さらに磁化の変調位置に対応する偏波変調信号をもつモード群の空間パターンの分離に成功した。また、コア内に発生させた単一に近い低次数のモードを用いて、モードの次数に依存したMO信号の識別が可能である事を示した。これらにより光ファイバーのような光伝播路の断面積に対して大きな表面積を誇る形状の光導波路を用いることで多重な光の偏光制御が可能であることを実証した。以上の結果を国際論文誌Applied Physics Letters で報告した。 エバネッセント波を用いた磁性体・コアカップリング効率の最適化の実験を高屈折半球レンズ[基板/SiO2スペーサ層(d = 25~100 nm)/GdFe薄膜]構造を用いて系統的に行った。d = 25 nmのとき半球レンズ側から入射したP偏光によるエバネッセント波のMOカー回転量が最大値0.7度をとった。これは磁気光学材料の代表的な値(0.1度)と比べて十分大きい。カップリング効率を高めるためには~25nm以下のスペーサ層が適切であると分った。 光誘起磁化歳差運動に対する下地層の表面粗さの影響についてCoPd多層膜を用いて基板依存性を調べた。半導体材料では磁化歳差運動の発現に対して基板依存性はほぼなく、SiO2では平坦性の高い基板でも歳差運動が発現しなかった。基板による歳差運動への影響は表面の平坦性ではない表面状態に起因している可能性を示す結果である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
磁性体/マルチモードファイバーからの多重な磁気光学信号の分離計測は達成した。特にハイブリッドファイバーを用いた偏波変調信号の多重伝送と空間的多重分離の実証により、光ファイバーの側面積と磁性体の磁化を利用した偏波変調器を新しい光デバイスの概念として提案できた事は、本研究課題の主目的の一つである多重な光の制御法の開発と合致する。 低モード/偏波保持ファイバーの加工によるデバイス作製はあまり進展しなかった。理由はMO信号検出系の性能向上により微小なMO信号の安定取得が可能になったこと、磁性体・コアカップリング効率の研究を高屈折率半球レンズ試料と構築したMO測定系で系統的に行えたこと、十分小さい伝送路長をもつコア径50μmのハイブリッドファイバーで単一に近い低次数のモードの研究が可能になったこと等から、研究推進の方法の転換を図ったためである。またコア径50μmの試料で得られた結果のデータ解釈に注力した事も挙げる。 エバネッセント波を用いた磁性体・コアカップリング効率の最適化は半球レンズ基板の試料を用いて実験の面ではほぼ達成したが、結果についての理論面からの考察はエバネッセント波を含むMO効果の計算プログラムの整備が続行中でありやや遅れ気味である。導波路内偏光におけるMO効果の理論的解釈の検討は数値解的計算が有利という結論に至り市販ソフトのデモ版などを活用して調査を行って順調に結果を得た。光誘起歳差運動に対する基板の影響については平坦性による寄与以外の可能性が示唆され当初の予想と異なったがほぼ順調である。デバイスとしての高性能化や性能評価、メモリー機能の実証については上記の研究を重点的に行ったため遅れている。
|
Strategy for Future Research Activity |
磁性体/ファイバーコア・光結合デバイスのメモリー機能の実証はコア径50μmのマルチモードファイバーを中心試料として行う。伝送路の短い試料のコア内に単一に近い低次のモード状態を伝送させ、MO信号の磁性体における上/下方向磁化の面積比依存性を評価し、磁化反転の場所を指定することでMO信号を用いた加減算の演算機能を実証する。磁性体・コアカップリングの最適化は高屈折率半球レンズ試料の実験結果に対して複素誘電率テンソルを含む多層膜中の多重反射計算を遂行した後、試料を平面型導波路と見立ててシミュレーションを行い、エバネッセント波の強度に対するMO効果の大きさと性能指数(MO信号強度/反射率)の点からカップリングの最適化を図る。基板の表面平坦性と光誘起磁化歳差運動の相関については引き続きCo/Pd多層膜とGdFe薄膜との時間分解磁気光学信号や原子間力顕微鏡像の比較により解明を図り、基板の平坦性がどの程度歳差運動の発現に影響するかの実験的な結論を得る。ハイブリッド構造内の電磁場とMO効果の時間・空間的発展の理論的な理解の検討については国内外の研究グループの情報収集を行うことで共同研究の可能性を探る。また、光誘起歳差運動を有するデバイス用メモリー磁性体材料の探索は酸化膜磁性体なども含めて行う。
|
Causes of Carryover |
本年度中の早い段階のうちに磁性体・光ファイバーハイブリッド構造で得られた実験結果の解析を完了して論文での発表を行う予定であったが、データの解析が進む中で結果が研究当初は予想していなかった光デバイスの新機能性(偏波変調信号の多重伝送と多重分離)を示す内容であることが分かってきたため、その十分な解釈を行う事を優先した。そのため、ハイブリッド構造を用いた光演算機能の実証などの計画に遅れが生じることになり未使用額が生じた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度はハイブリッド構造を用いた光演算機能の実証とエバネッセント波を用いた磁性体・コアカップリングの最適化のための解析とその発表を中心に行うこととし、未使用額はその経費および論文出版費等に充てることとしたい。
|