2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25870231
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Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
伏屋 雄紀 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 准教授 (00377954)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ディラック電子系 / スピン軌道相互作用 / 量子輸送現象 / マルチバンドk.p理論 / g因子 / 国際情報交換 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初計画通り,平成26年度は(C)実際の物質に対する有効模型の構築を行った. 古くから熱電材料として知られるBiやBi2Se3では,従来理論に基づく有効模型では全く理解できない謎が存在していた.それは,有効ゼーマンエネルギーとサイクロトロンエネルギーの比(ゼーマン比;M)が極端に大きくて(M~2)異方的であることである.我々は本研究で目指す有効模型構築の有効性を確認するテスト課題として,この問題を取り上げた. (1) まず当初計画通りWolff-Dirac模型(2バンド模型)に基づいてゼーマン比を計算したところ,いかなる異方性を考慮しても常にM=1となり,このままでは実験を説明できないことが分かった.次にk.p理論に基づいてさらに高エネルギーのバンドを考慮した3バンド模型を構築し,ゼーマン比を計算すると,むしろM<1となることを得た.そこで一般にNバンドを考慮したマルチバンド模型をk.p理論に基づいて有効質量テンソルとg因子を求める一般的な公式を導き,これを用いてゼーマン比を求めると,M>1になりうることが分かった. (2) 次にBiの具体的なバンド計算から出発し,T点におけるマルチバンドk.p模型を構築,得られたk.p変数を(1)の一般公式に代入し,BiのT点におけるゼーマン比を見積もった結果,M=2.08という値を得た.これは実験で得られていたM=2.12と非常によく一致する. (3) さらに,BiにSbをドープした場合およびBiを加圧した場合についても上記理論的枠組みに則してゼーマン比を計算したところ,これも実験と定量的によく一致する結果を得た. 以上のことから,(i) 様々な物質に対応できる汎用性の高い有効模型としてマルチバンドk.p模型を構築,(ii)有効質量やg因子はもとより,これまで困難であったゼーマン比も定量的に正確に見積もることを立証した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初計画で本年度は物質固有の有効模型を構築することであった.特に,Bi, BiSb, Bi2Te3, Bi2Se3についての有効模型を予定しており,これらについては概ね順調に進展した.この他にも,PbTe, SbTeをはじめとするIV-VI半導体にも結晶構造が異なるにもかかわらず本有効模型が適用できることが確認でき,当初の予定以上に広範囲の物質群に適用できることが明らかになった. さらに,この有効模型の特性を活かし,g因子を計算した結果,Biにおいて長年の謎であった,異方的で大きいg因子の謎が定性的のみならず定量的にも解決することに成功できたのは,計画の枠を超える大きな成果であった.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は本研究の最終目標である(D)さらに高いZTの可能性を探る. これまでに得てきた理論を有限温度に拡張し,熱電性能指数の計算に対処できるようにする.一般に有限温度では化学ポテンシャルが温度とともに変化するが,BiやBi2Te3等の少数キャリア半金属・半導体では,この変化が非常に大きく,熱電性能指数に大きな影響を与える.加えて,半金属では電荷中性条件を満たすためにさらに化学ポテンシャルが変化する.こうした問題点を適切に考慮した理論を構築する. その上でさらに磁場,圧力,ドーピングなどの条件を変化させてシミュレーションを行い,さらに高いZTを持つ条件を見出す. 理論を展開する道中において,磁場中ゼーベック係数の測定データをフィードバックすることで理論の定量性を確保する.
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Research Products
(13 results)