2013 Fiscal Year Research-status Report
貧栄養環境に生息する細菌群集の生存代謝メカニズムの解明と応用展開
Project/Area Number |
25870295
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
木村 浩之 静岡大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (30377717)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | バクテリア / 貧栄養環境 / 生存戦略 / RNA発現 / small RNA / 定量RT-PCR / 海洋細菌 / トランスクリプトーム |
Research Abstract |
貧栄養水圏環境では、糖、アミノ酸、核酸といった栄養塩の不足が原因で、生物の基本的な代謝プロセスである翻訳が停滞することがある。これまでの研究において、貧栄養環境下にてバクテリアがsmall RNA(sRNA)を大量に発現すること、中でもsRNAの一種でトランスファーRNAとメッセンジャーRNAの両方の機能を有する、transfer-messenger RNA(tmRNA)が多く発現することが報告されている。加えて、tmRNAは貧栄養水圏環境に生息するバクテリアの生存メカニズムにおいて重要な役割を担っている可能性が示唆されている。そこで、本研究課題では、貧栄養環境下に生息する微生物のtmRNAの発現パターンを解析し、生存戦略メカニズムを明らかにすることを目的とした。 平成25年は、代表的な6つの微生物菌株をAmerican Type of Culture Collectionより購入し実験を行った。米国生物工学情報センターより、各微生物菌株のゲノム情報を入手し、sRNA解析ソフトウエアRfam 11.0を用いてtmRNAの同定と塩基配列(約400 bp)を明らかにした。さらに、それぞれのtmRNAに特異的なプライマーをデザインした。次に、6つの微生物菌株を富栄養から貧栄養まで異なる6段階の栄養状態の培地にて培養し、増殖したそれぞれの微生物菌株を回収した。total RNAを抽出した後、市販のDNA合成キットを用いてtotal RNAからcDNAを合成した。それぞれのtmRNAに特異的なプライマーを用いた定量RT-PCRによりtmRNAの発現量を測定した。その結果、富栄養培地ではtmRNAの発現はほとんど見られなかった。一方、貧栄養培地にて培養した微生物菌株からtmRNAの発現が見られ、富栄養培地にて培養した微生物菌株に由来するtmRNAの発現量より優位に高い値を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度に実施した研究において、合計6種類の微生物菌株を選定し、それぞれのゲノム情報を入手した。そして、ゲノム上のtransfer-messenger RNA(tmRNA)の塩基配列(約400 bp)を特定した。さらに、それぞれのtmRNAに特異的なプライマーをデザインするに至った。加えて、定量RT-PCRにより富栄養から貧栄養まで培地の栄養条件を変えた培養において、tmRNAの発現量に優位な差が見られることを明らかにした。また、平成25年度の海洋調査航海において、貧栄養海域から富栄養海域まで栄養状態の異なる海域にて海洋細菌を採取し、RNA解析を行うためのサンプルを冷凍庫にて保存した。 平成25年度の研究課題では、1.市販の微生物菌株のsmall RNAの発現量の解析、2.海洋細菌群集のsmall RNAの発現量の解析の2つの目標を設定した。1.市販の微生物菌株のsmall RNAの発現量の解析に関しては、平成25年度に実施した研究において完了した。また、2.海洋細菌群集のsmall RNAの発現量の解析については、これまでの海洋調査航海において、南西太平洋の貧栄養海域から東京湾・駿河湾の富栄養海域まで栄養状態の異なる海域にて海洋細菌を採取し、total RNAを解析するためのサンプルを既に冷凍庫にて保存している。よって、現在までの研究は概ね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの調査航海において採取した表面海水の海洋細菌群集のtotal RNAを抽出する。市販されているcDNA合成キット(MessageAmp II-Bacteria Kit, Ambion)を用いてtotal RNAを鋳型としたcDNAを合成する。さらに、次世代シーケンサーを利用して網羅的にcDNAの塩基配列を決定する。シーケンスの際に用いるフローセルを適度に分割することにより、1サンプル当たり50万リード、1リード当たり300-500 bpを目標に大量シーケンスを行う。クラウドコンピューティングを利用した次世代シーケンス解析ソフト(SeqNova CS, DNAnexus Inc.)を用いて、塩基配列が決定されたcDNAの遺伝子機能の同定(アノテーション)を実施する。さらに、大型遺伝子解析サーバーを利用して同定されたRNAのリード数を決定する。 特に、平成26年度の研究では貧栄養海域から富栄養海域まで栄養状態の異なる海域に生息する微生物群集に由来するsmall RNA(中でも、transfer-messenger RNA)のアノテーションおよびリード数のカウントを実施する。そして、貧栄養環境にて飢餓状態になった海洋細菌のsmall RNAの発現パターンとその生理機能について検証する。さらに、様々な栄養条件下で機能する主要な代謝経路を特定する。特に、基質濃度センサー(chemotaxis protein)、二次伝達タンパク(His kinase)、転写制御タンパク(regulator protein)など栄養塩濃度の変動に関与することが期待されるタンパクをコードしたmRNAの解析も併せて実施する予定である。
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Research Products
(5 results)