2013 Fiscal Year Research-status Report
自己スピン回転機能を有する電界放出型スピン偏極電子源の開発
Project/Area Number |
25870326
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
永井 滋一 三重大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (40577970)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 電界放出型電子源 / スピン偏極電子源 / 反強磁性体 / Cr |
Research Abstract |
電界放出型スピン偏極電子源は,陰極内部の結晶構造のみならず表面原子構造に極めて敏感である.10^-8 Pa台の超高真空下の清浄な環境でCr薄膜をタングステン電界放出陰極に蒸着するために,清浄な環境で磁性体薄膜を蒸着するための電子ビーム蒸着源を試料準備室に増設した.また,表面の原子構造を評価するために,電界イオン顕微鏡(Field Ion Microscope : FIM)を既存のスピン偏極度評価装置に増設した.磁性体薄膜の蒸着,FIMによる表面原子構造評価,電界放出電子のスピン偏極度評価チャンバーを全てロードロック接続することで,極めて清浄な環境で評価可能な装置を開発した. 2.Cr/Wエミッタの作製と評価 室温で,W<110>電界放出陰極にCrを10nm堆積させ,この陰極の表面原子構造をFIM観察した.FIM観察では,陰極を液体窒素で85Kまで冷却し,Crの蒸発電界以下のイオン化電界をもつH2を結像ガスとして用いた.その結果,単結晶構造を示すパターンが観測されたが,その構造は1nm程度と薄く,アイランド成長を示唆するものであった.結晶性改善を目的に,室温で蒸着した後に,750Kで100secのアニール処理を施した結果,W<110>電界放出陰極上に所望の膜厚10nmの単結晶Cr薄膜の形成を達成した.清浄な環境での磁性体膜形成とポストアニールにより,再現性良くエピタキシャルなCr薄膜形成が可能になり,高偏極度かつ再現性の高い電界放出型スピン偏極電子源の実現が期待される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究遂行上,必要不可欠なFIM機構と電子ビーム蒸着源の増設は完了した.これらによって,清浄なCr単結晶層の成膜とその結晶構造評価を可能にした.本研究の最重要事項である単結晶Cr薄膜の形成手法を確立しており,自己スピン回転機能の実証実験の足がかりとなった.以上から,本研究課題はおおむね順調に遂行されていると考えられる.また,本研究で開発した装置は,スピン偏極STM探針の評価手法として有効であることも実証された.26年度は,予備実験としてW<110>電界放出陰極を母材として用いたが,次年度はW<001>単結晶ワイヤーを用いて,自己スピン回転機能の実証実験を行う.
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Strategy for Future Research Activity |
1.Cr/W<001>スピン偏極電子源の評価 Cr(001)/W(001)陰極のスピン偏極度測定を実施する.これまでの研究成果から,電界放出電子のスピン偏極度は表面状態を始め,印加電界,陰極温度に敏感であることが判っている.そのため,これらをパラメータとした最適動作条件を確立すると共に,Crのスピンフリップ温度前後でのスピン偏極度方向の回転を確認する.得られた知見を1.で述べた成膜条件(膜厚,蒸着時の基板温度,下地W(001)のサイズ)にフィードバックして,偏極度向上のための最適化を図る. 2.スピン偏極電子源の長寿命化 陰極の寿命は,表面への残留ガスの吸着に起因すると考えられ,陰極表面を電界脱離によって清浄化することで,長寿命化が期待される.本研究課題では,加熱もしくは電界脱離法によって,偏極度特性を維持しつつ表面清浄化の可能性を検証して8時間以上の動作を実証する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
装置のメンテナンス性と拡張性を高めるため,電界イオン顕微鏡の増設を外部委託では無く独自に実施したので,次年度使用額が生じた.独自に増設した電界イオン顕微鏡は,本研究課題を遂行する上で必要十分な性能を発揮していることから,次年度以降の研究への支障は生じない. 次年度使用額を物品費として計上し,本研究課題で重要な母材である単結晶Wワイヤ購入に追加計上する.使途明細は以下のとおりである.Crロッド(100,000円),ガスケットなどの真空部品(150,000 円),高電圧部品 (130,000 円),単結晶Wワイヤ (184,794 円)応用物理学会・東京(50,000円), 応用物理学会・北海道(70,000円) 真空ナノエレクトロニクス国際会議・欧州(300,000円)
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