2013 Fiscal Year Research-status Report
代数的確率論に基づく細胞内反応時系列データ解析手法の開発
Project/Area Number |
25870339
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
大久保 潤 京都大学, 情報学研究科, 講師 (70451888)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 確率過程 / 細胞内反応 / 化学反応系 / 計数統計 / 代数的確率論 |
Research Abstract |
本年度は特に,細胞内反応に関わる確率過程を扱うための基礎数理に関する研究を実施した. 確率過程において特定の遷移に関する情報を引き出すための枠組みである計数統計については,幾何学的位相に着目した研究を実施した.ある非平衡定常状態から別の非平衡定常状態に遷移する際の変化の特徴をどのような量で測るべきか,という問題については決定的な答えがない状態であり,様々な試みがなされている.ここでは何かしらの数理構造を背景とした量を模索することを考えた.その結果として,非周期的・非断熱的という一般的な状況において幾何学的位相を定義でき,これが遷移を特徴付ける量の候補となりうることを示した.提案した量を簡単な確率モデルにおけるエントロピー生成の問題に適用したところ,提案した量はシャノン情報量の差と近い値を取ることが明らかとなった.まだ提案した量の性質については不明な点も多いが,この成果は,細胞内反応等の非平衡現象一般を記述するための足がかりとなることが期待される.他にも計数統計に関する招待論文の執筆もおこなった. また,細胞のような小さな系では離散的な状態をもつ確率過程を扱う必要があるため,関連する基礎数理に関する研究も進めた.これまで離散的な状態をもつ確率過程と連続的な状態をもつ確率過程の間に成立する双対性が知られていたが,重み因子と付加的な状態を利用することで,かなり広いクラスの方程式系に対して双対性を拡張できることが明らかとなった.これにより,特に非線形な係数をもつ確率微分方程式の取り扱いが容易になり,この結果を利用した新しいカルマンフィルタの研究にも着手することができている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の目標である基礎数理に関しては,双対性の拡張など,当初の予定通りに進んでいる.また特に確率微分方程式系については,この双対性を利用したカルマンフィルタの数値計算法の研究にも着手することができたため,本研究課題の最終目標である「データ解析手法の開発」に着実に近づいている.
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Strategy for Future Research Activity |
連続的な状態をもつ確率過程については,双対性を利用することでデータ解析手法を提案できる方向性が見えてきており,今後,さらに実用的な手法を提案できるように研究を進める予定である.現在は単純なモンテカルロ法に依存している数値計算の部分について,重点サンプリング法等の手法を利用できないか,もしくは決定論的な計算に置き換えることができないか,といった点について検討する予定である. 離散的な状態をもつ確率過程については,実用的なデータ解析手法の提案のために双対性をどれほど利用できるか,まだ不明な点が多い.非線形制御理論においても非可換代数を利用した似たような定式化があると判明したため,こういった他分野における研究も参照しながら,基礎数理について引き続き研究を進める予定である.
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