2013 Fiscal Year Research-status Report
磁気プロセッシングによる環境調和型高分子の高次元異方化と機能制御
Project/Area Number |
25870356
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
久住 亮介 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (70546530)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 磁場配向 / 擬単結晶 / 固体NMR / 化学シフトテンソル / ポリL-乳酸 / 結晶化核剤 / エピタキシャル成長 |
Research Abstract |
本研究では,リン元素含有の有機微結晶を特殊磁場下で三次元配向させ,これを環境調和型ポリエステルのエピタキシャル成長の核とすることで,高度に制御された異方性をもつ環境調和型ポリマー材料の創製と構造解析・機能開拓を試みている.平成25年度には,次の課題(A)および(B)を遂行した. (A) リン含有の低分子微結晶の擬単結晶化と多核NMR分光法による構造解析手法の確立 (B) リン系低分子微結晶からのポリ乳酸のエピタキシャル成長と構造解析・機能制御 その結果,平成25年度末までにおいて下記の成果が得られた. 課題(A):モデル微結晶としてフェニルホスホン酸(PPA,斜方晶)を選択し,従来の手法に基づき,変調回転磁場を用いてPPA微結晶の三次元配向体(擬単結晶)を作製することに成功した.既報の13C化学シフトテンソル解析の手法を参照しつつ,PPA擬単結晶の31P固体CP NMR測定を行い,PPA擬単結晶の31P化学シフトテンソルの決定に成功した.すなわち,“31P擬単結晶NMR法”による含リン系有機微結晶の構造解析手法を確立したと言える. 課題(B):ポリL-乳酸(PLLA)の結晶核剤としてフェニルホスホン酸亜鉛塩(PPA-Zn,単斜晶)を選択し,まずは既往の手法に従ってPPA-Znの擬単結晶化を試みた.PPA-Zn微結晶の凝集のため配向度は低いものの,アクリル系ポリマー中にてPPA-Znを三次元的に配向させることに成功した.また,これと並行して,溶融混練機を用いて得られたPPA-Zn/PLLA複合体を8T超伝導磁石内にセットし,まずは静磁場を用いてPLLA溶融下でのPPA-Znの一軸配向化を試みた.その結果,溶融PLLA内にて一軸配向化したPPA-Znの結晶表面から,PLLAをエピタキシャル成長させることに成功した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は,次の3つの小課題にて構成されている.課題(A),リン含有の低分子微結晶の擬単結晶化と多核NMR分光法による構造解析手法の確立;課題(B),リン系低分子微結晶からのポリ乳酸のエピタキシャル成長と構造解析・機能制御;課題(C),オールバイオマスからなる高次元異方性材料の創製と構造設計・物性制御.本研究ではまず,課題(A)により多核NMR法による擬単結晶の構造解析手法を確立する必要があるが,既報の13C化学シフトテンソル解析の手法を基にフェニルホスホン酸(PPA)擬単結晶の31P化学シフトテンソルの決定に成功した.この成果は,平成25年度内にて達成予定であった”31P擬単結晶NMR法”の確立が成されたことを示している.一方,課題(B)において,ポリ乳酸(PLLA)の結晶核剤であるフェニルホスホン酸亜鉛塩(PPA-Zn)の変調回転磁場による三次元配向化に成功した.配向度は擬単結晶と呼ぶには未だ不十分なものではあるが,改善策に基づき,配向の精密化が達成されつつある.上記に加え,溶融混練により作製したPPA-Zn/PLLA複合体を用いて,8T静磁場下にて一軸配向化させたPPA-Zn結晶表面からのPLLAエピタキシャル成長を達成した.この成果は,研究計画の立案時において平成25年度内にて得られると見込まれたものである.また,前述の通り,PPA-Znの擬単結晶化が達成されつつあることから,PLLA溶融下でのPPA-Znの三次元配向化とその表面からのPLLAエピタキシャル成長化についても近く成功が見込まれる.課題(C)は平成26年度以降に遂行予定のものであるが,原試料となるホヤセルロースの微細化とPLLAへの均一分散法についての情報収集,および予備実験が現在進行中である. 以上の状況から,本研究課題は当初の研究実施計画に概ね沿った形で順調に進展していると判断できる.
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度に引き続き,当初の研究実施計画に基づいて研究課題を遂行する.具体的には以下の通りである. 課題(B):溶融混練により作製したPPA-Zn/PLLA複合体を用いて,8T下で変調回転磁場を印加して溶融PLLA中でのPPA-Znの三次元配向化を達成する.配向化させたPPA-Zn結晶表面からPLLAエピタキシャル成長を誘起させ,高度に異方性が制御されたポリ乳酸結晶を得る.先に課題(A)にて確立した31P 擬単結晶NMR法およびX線回折法を用いて,PPA-Znを核として得られた異方化ポリ乳酸の構造解析を行う.PPA-Zn結晶核剤の磁場配向様式と,得られたポリ乳酸の結晶構造の相関についての基礎的知見を集積する.作製した高次元異方化ポリ乳酸について,偏光顕微鏡,FT-IR,UV/Vis分光光度計,動的粘弾性測定装置等を用いて光学的および力学的特性を解析する.先に集積した結晶構造データと各種物性の相関を体系化する.磁場配向方位・磁場勾配等の配向条件を幅広く検討し,面内/垂直配向,斜め配向および分布をもつ不均一配向といった様々な配向様式をもつ高次元異方化ポリ乳酸を作製する.配向様式の制御には,8T超電導磁石,2T電磁石用異型ポールピース,特殊配置の永久磁石を使用する. 課題(C):セルロース微結晶(CNC,単斜晶)の表面にリン元素を導入,CNC-31Pを得る.溶融ポリ乳酸中に分散させたCNC-31Pの三次元配向化と,微結晶表面からのポリ乳酸のエピタキシャル成長を達成する.課題(A)の31P擬単結晶 NMR法およびX線回折法により,CNC-31Pを結晶核とする異方化ポリ乳酸の構造を解明する.光学的,力学的および電気的物性を評価し,課題(B)の低分子微結晶系と比較考察する.オールバイオマスからなる高次元異方性材料としての光学,力学および電気化学分野等への応用展開の可能性を例証する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨25年度において,本研究課題は当初の研究計画にほぼ沿った形で順調に進展した.それに伴い,課題遂行に必要な薬品・ガラス器具などの消耗品費や数式処理システムの時間使用料を最小限に抑えることができたため,次年度使用額が生じる結果となった.また,25年度には微量混練押出機を購入予定であったが,予備実験の結果,当該装置では目的を達成し得ないことが判明したため,購入を見送ったことが大きい.ただし,その代替として,京都大学生存圏研究所の矢野浩之教授が所有するより強力な溶融混練機を借用できたため,実験自体は当初の計画通りに進展している. 次年度使用額が生じた理由は前述の通りであるが,今後複数種の原試料や薬品,更には固体NMRによる化学シフトテンソル解析用の特殊プローブの調達等を検討せざるを得ない状況が発生する可能性は依然として残っている.特に,固体NMR用の特殊プローブは市販されておらず,設計作業を含めた特注品となるため,かなりの高額となることが予想される.これらの需要を満たすための費用として使用する予定である.
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