2013 Fiscal Year Research-status Report
過酸化水素・オゾンの非残留性に着目した金属の高度分離・回収・精製法の創成
Project/Area Number |
25870473
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
|
Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
薮谷 智規 徳島大学, ソシオテクノサイエンス研究部, 准教授 (80335786)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 金属 / リサイクル / 低環境負荷 / 過酸化水素 / レアメタル |
Research Abstract |
工業的な金属回収法としては、簡便かつ大量の試料を処理可能である沈殿法が用いられている。一般的に生成した沈殿からの金属の回収には沈殿を酸で溶解する工程を含むが、酸としては硝酸、塩酸、硫酸が使用されることが多い。これらの強酸は腐食性、毒性、窒素の排出規制など、環境面において負荷がかかる。そこで本研究では安全かつ穏和な条件における水酸化物共沈担体からの金属溶出を考慮し、溶離液に過酸化水素(H2O2)を用いた。H2O2は、水素と酸素原子のみで構成されている。加熱により速やかに水と酸素分子に分解し、強い酸化作用を持つ。今回は、ランタン(La)水酸化物を担体とする共沈法により、各種対象金属(V, Mo, W, Sb, Seなど)を共沈させた。La水酸化物沈殿を回収後、溶離液としてH2O2を添加した。その際の沈殿からの金属溶出挙動を調査した。この場合には、Sb(III), Se(IV), W(IV)の回収率が50%を超えた。一方、共沈担体であるLaは過酸化水素相へはほとんど溶出されていなかった。水酸化物共沈法で一般的に用いられる強酸による水酸化物沈殿の溶解による金属溶出メカニズムではなく、過酸化水素との錯形成もしくは酸化・還元作用に基づく溶出、あるいはLa水酸化物の構造変化が溶出をもたらしたものと推測される。 一方、鉄鋼や触媒などへの機能の付与には少量の異種金属を添加することが行われている。今回は、それらの試料からの金属溶出にペルオキシ化合物を利用した際の金属溶出挙動について把握した。その結果、過酢酸や過炭酸などのペルオキシ化合物が、これらの試料からの金属溶出に良好な効果を与えることが判明した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ランタン(La)水酸化物は、対象とするV, Mo, W, Sb, Seなどのオキソ酸形成元素を効果的に沈殿、回収できる担体である。La水酸化物による共沈では上記の金属がほぼ定量的に沈殿相に移行していた。この沈殿に過酸化水素を添加したところ、過酸化水素相にSb(III), Se(IV), W(IV)が50-90%程度回収できることが判明した。一方、共沈担体であるLaは過酸化水素相へはほとんど溶出されていなかった。La水酸化物の構造をすなわち、共沈担体が溶解するのではなく、La水酸化物に内包されている金属イオンと過酸化水素との相互作用、あるいはLa水酸化物の構造変化に伴う溶出が推測される。これまでに、過酸化水素からの金属の溶出は検討されておらず、また、共沈担体を溶解すること無く金属を抽出する現象はほとんど報告されておらず、学術的には新規な結果であると思われる。 一方、鉄鋼や触媒からの金属溶出にペルオキシ化合物を利用する試みについても、添加物の溶出に過酢酸や過炭酸が良好な効果を与えることが判明している。さらに、V, Mo, Wと鉄系金属成分の一斉分離を試みたところ、アルカリ処理により上記3成分は溶液相に、鉄系金属成分は沈殿相にほぼ定量的に分配されており、資源回収や金属分析時の前処理などへの応用が期待できる。 以上を総合して、計画に対して概ね順調に進展できているものとした。
|
Strategy for Future Research Activity |
国内でバナジウム・モリブデン・タングステンの精錬・リサイクルを実施しているメーカーに赴き、工場見学とともに研究に関する意見交換を行った。その中で、レアメタルの価格は市況に強く影響され価格変動が激しく、リサイクルシステムへの初期投資の回収とランニングコストを考えると、付加価値の高い形態(状態)として成分回収できないと実用は難しいとの意見を得た。すなわち、再生品レアメタルの精製度を少ない工程で高める技術が求められる。しかし、モリブデンとタングステンは化学的性質が極めて類似しており、有効な分離技術が存在しておらず、リサイクルの妨げになっている。また、昨今の環境規制の強化によって、事業者は窒素を含む溶媒の使用が強く制限されている。この点においては本技術の優位性が高いとのコメントを得た。 現状では、回収した金属、特にモリブデンとタングステンの単離については、有効な知見を得ておらず、26年度以降の重要なテーマとして取り組む所存である。今回の完了報告書にもあるように、キレート抽出―非強酸・非窒素系水溶液による溶離に基づきモリブデンとタングステンの精密分離を実施する。溶離時の溶液濃度によってモリブデンとタングステンの分離度が異なることから、この点の最適化を図る予定である。
|
Research Products
(4 results)