2013 Fiscal Year Research-status Report
法的権利救済システムにおける中立性と独立性の「相関理論」の研究
Project/Area Number |
25870506
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Sapporo Gakuin University |
Principal Investigator |
山下 慎一 札幌学院大学, 法学部, 講師 (10631509)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 職権主義に代わる概念 / 権利救済機関の独立性 / 権利救済における当事者間の非対等性 |
Research Abstract |
平成25年度の研究は、主として、権利救済機関の「独立性」と「職権主義」という両概念(本研究の分析軸)の精練に費やされた。 前者については、まず、日本の社会保障法領域において、権利救済機関がどのような発展の歴史を辿り、その中で、権利救済機関の行政からの「独立性」という観点がどのように作用していたかを、一次資料を用いて検討し、その成果を公表した(山下慎一「社会保障法領域における行政不服審査―「権利救済」論のための準備的考察」法政研究80巻1号)。さらに、イギリスの審判所制度について、独立性という議論がどの時点で発生したか、およびそれが歴史上どのように発展をしたかについて研究し、その成果もまた公表することができた(山下慎一「社会保障の権利救済―イギリス審判所制度の独立性と職権主義(1)・(2)」札幌学院法学30巻1号・2号)。 これらの研究は、社会保障法領域における権利救済機関の独立性という議論の変遷を歴史的かつ日英比較法的に明らかにした点で、新規性が強く、重要であった。しかしながら、これまでのところ、特に日本に関して「独立性」と「中立性」の概念がなぜ歴史的に区別されてこなかったのか、という点を明らかにすることができておらず、その点において研究計画に若干の遅れが生じている。 続いて、後者の「職権主義」に関しては、北海道社会法研究会、イギリス社会保障法研究会をはじめとする数多くの研究会で研究報告を実施したことで、数多くの示唆を得ることができた。それらの中で特に重要であったのは、「職権主義」という概念そのものについて再考する契機を得られたことである。イギリスの議論を念頭に置くと、「当事者主義―職権主義」という二分法自体に限界があるのではないかという指摘を得て、日英において長らく使用されてきた「職権主義」に代わる新たな概念(「援助主義」・「積極的職権行使」など)創出の着想を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
【研究実績の概要】記載のとおり、「独立性」と「中立性」の概念の歴史的関連性を、いまだ十分に明らかにすることができていない点において、研究がやや遅れている。この理由は、主として下記の二点である。 第一に、「独立性」という概念に関する先行業績は数多くみられるものの、「中立性」に関する業績が比較的多くない、という問題である。「中立性」というタームが使用されている業績においても、本研究の考える「独立性」と「中立性」が区別されることなく使用されているなど、用語法や理論において(申請者の観点からは)混乱が生じているように見受けられ、それらの整理に、いましばらくの時間が要される。 第二に、「独立性・中立性」と並んで本報告の分析軸となる「職権主義」に関して、研究会等で数多くの示唆を得ることができ、当該概念の内実と限界、さらには代替案となる概念の可能性を突き詰めることに研究時間の多くを割いたため、「独立性・中立性」の検討に充てられる時間が相対的に短くなってしまったことである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は、下記の二点である。 第一が、本研究の二つの分析軸のうち、特に「職権主義(あるいは積極的職権行使)」に関わる、研究成果の継続的発信と、そこから得られるフィードバックを活かした、概念の一層の精緻化である。 具体的には、2014年5月の日本社会保障法学会春季大会において、個別報告を実施すること(確定事項)、本務校である福岡大学の2014年度出版助成制度を利用して、これまでの研究成果の一部について単著の単行本を刊行すること(申請中・出版社とは合意済み)、前任校の紀要において、これまでの研究成果を公表すること(投稿済・掲載確定)、各種研究会における報告である。この「職権主義(あるいは積極的職権行使)」に関しては、従前の研究の進展等に鑑み、それほど困難に直面することなく研究を信仰することができると予想される。 第二が、「独立性と中立性の関連性」の議論にかかる、文献収集・概念整序・研究会報告を経たうえでの、研究成果の公表である。これまでの研究の進度からすると、当該作業が、今後の研究のキーポイントとなる。すでに、本書類作成時において、文献収集に関しては一定の成果を見ているものの、そもそも本研究に関わる先行研究自体がそれほど多くはないという現状からは、これ以上の文献を入手することが困難であるかもしれず、このことは、本研究の進展に対する課題である。当該課題に対処するために、国内における数多くの研究者と議論をして、さらに、イギリスをはじめとする国外に渡航して研究者と直接対話することで、文献として顕在化していない知見を入手し、研究進展の糸口としたい。 上記を踏まえたうえで、2014年度中に、最終的な研究成果の公表準備を整える。そして、国内における研究成果の公表は遅くとも2015年度上半期中に、そして国外における研究成果の公表は2015年度中に、達成する計画である。
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Research Products
(6 results)