2013 Fiscal Year Research-status Report
緊急災害時の環境汚染に対する責任制度の研究-免責規定の適用に焦点を当てて-
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25870527
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
小林 寛 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科, 准教授 (30533286)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 原子力損害 / 損害賠償責任 / 免責 / 無過失責任 / 環境汚染 / 緊急災害 |
Research Abstract |
平成25年5月に、小林寛「原子力損害賠償責任における免責規定の適用要件に関する考察」(法律時報85巻5号103頁-109頁)を発表し、これまでの研究実績を早期に公表した。また、当該論文をもとにして、平成25年6月29日開催の九州法学会(於:沖縄大学)において、「原子力損害賠償責任における免責事由の解釈に関する検討」との題目で研究報告を行った(2013年九州法学会会報5頁)。原子力損害賠償法は、原子力事業者に原子力損害についての無過失責任を規定しているものの、「社会的動乱」又は「異常に巨大な天災地変」の場合における免責規定をおいている。東日本大震災に伴う福島第一原発事故による緊急災害が「異常に巨大な天災地変」に該当し、原子力事業者である東京電力株式会社が免責されるのかどうかは重要な論点であり学界においても議論されたところ、本研究申請者は、前記論稿及び学会報告において、自説を明らかにした。結論は、本事件において免責規定は適用されないとの立場を明らかにした。その理由として、原賠法の基本構造だけでなく、条約(パリ条約及びウィーン条約)や諸外国(ドイツ、アメリカ、イギリス、カナダ)の立法例を明らかにしたうえで、原賠法の解釈として、①「異常に巨大な天災地変」、②「によって生じた」といえるかどうかの2つのレベルに分けて検討を行い、結論を導き出した。特に②について、天災地変の客観的な異常巨大性だけでなく、原子力損害の発生が真に原子力事業者の側で支配できない事由たる異常に巨大な天災地変「のみ」から「直接」発生したのかという、排他性や直接性の判断も行う必要があるとの立論を行ったことが重要である。 緊急災害時の環境汚染における事業者の無過失責任がいかなる場合に免責されるのかということに関して平成25年度は原子力損害に焦点を絞ってこれを明らかにしたものとして、本研究は重要な意義を有する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は前記の論稿(法律時報85巻5号103頁以下)を発表したのみならず、九州法学会においても研究報告を行うことが出来た。原子力損害賠償責任における免責規定の適用要件に関する考察は、順調に進展したと言える。 また、原子力損害賠償責任のみならず、他の環境汚染(例えば、大気汚染や水質汚濁)による損害に係る賠償責任における免責規定の適用要件についても考察を推進することができた。各環境媒体に対する汚染を総合した無過失責任における免責規定の適用要件に関する一考察を行った論文案を作成することができた。研究は概ね順調に進展したと言える。平成26年度中の論文の発表を計画している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度において、原子力損害賠償責任における免責規定の適用要件を考察したことを踏まえて、平成26年度は、原子力損害賠償責任だけではなく、無過失責任を規定している他の法制度(例えば、大気汚染防止法、水質汚濁防止法、鉱業法、船舶油濁損害賠償保障法など)の下での免責規定の適用要件についても考察を推進し、論文の発表を計画している。論文のタイトルは、「無過失責任における免責規定の適用要件に関する一考察―緊急災害時の環境汚染を素材としたアメリカ法からの示唆―」である。法律学術誌への投稿を計画している。日本法だけでなく本研究申請者が研究対象の一つとしているアメリカ環境法からの示唆を受けて、我が国の無過失責任における免責規定の適用要件は厳格かつ限定的に解釈されるべきことを指摘するものである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額が31,065円生じました。これは、前倒し支払請求を行った100,000円の内の未使用部分にあたる金額であります。OA機器等の購入代金を低く抑えることができた結果として、未使用額が発生致しました。 次年度使用額は、書籍の購入、複写費、資料調査・収集費に充てたいと考えております。
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Research Products
(5 results)