2014 Fiscal Year Research-status Report
中国近代文学における白話文体形成とジャンル間影響:欧化・方言・文言吸収の諸相から
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25870629
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Research Institution | Kobe City University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
津守 陽 神戸市外国語大学, 外国語学部, 准教授 (20609838)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 沈従文 / 文体 / 感覚表現 / 風景描写 / 抽象表現 / 自然 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、1940年代の中国における「抽象」表現追求を検討するための資料収集と、資料の読み込みを行った。また市民講座などで「文体」の角度から近現代文学史を再考した。 本年度は前年度の成果を中国語に翻訳したり、「都市と文学」「文学と中国意識」「沈従文の少数民族意識」など他のテーマで執筆・報告する機会が多く、本テーマにおいて新しい研究成果を出すまでに至らなかった。 前年度の成果により、1940年代の沈従文の抽象表現の追求が文学史上に大きな重要性を持つことについて確かな手がかりを得たので、これを足がかりに「抽象表現」の全体像をとらえるべく、京都大学と東京大学で1940年代の文学雑誌の閲読を行った。資料収集したのは沈従文が投稿を行っていた雑誌を中心に、『戦国策』『(香港)大公報・文芸』『中国作家』『創作月刊』『文学雑誌』『T'ien hsia monthly』『文飯小品』等である。資料の読み込みが不十分でまだ研究論文を執筆する段階に至っていないが、後述するワークショップ企画にて読み込みの成果を発表したいと考えている。 勤務先の大学において実施された市民講座では、中国の様々なレトリックを扱った「漢字の国のレトリック」連続講座の一部として、「変幻自在の錬金術―100年の文体を俯瞰する―」と題した講演を行った。その中で「近代文学における古文との関係・心理描写の手法・エンターテインメントの文体」という三つの角度から、魯迅・廃名・趙樹理・施蟄存・王蒙・金庸など多岐にわたる作家の文体を比較検討した。一般向けに平易な内容でという制約から、深い検討には至っていないが、本研究のテーマの土台を再考する機会となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
出産後日が浅く、引き続き長期出張や海外出張が難しい状況にあり、また平時も授業との兼ね合いで研究時間が捻出しづらい状況にあった。また研究上では、「郷土中国」と沈従文をテーマにした博士論文の書籍化を同時並行で進めているため、文体研究で新しい研究成果を生み出すに至らなかった。残り二年で積極的に学会・ワークショップなどでの発信に努めたい。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降は以下の3つを柱に、小説文体形成に働いたダイナミズムの一端を明らかにしたい。 (1)1940年代の小説に見られる抽象表現の追求は、近代中国文学の文体が到達したひとつの極点と考えられる。よって40年代の小説文体を本格的に対象として取り入れ、「感覚間の相互影響」など、民国期の詩壇における議論との影響関係を整理する。 (2)散文・小品文における文言吸収の様相と、沈従文のような小説文体を比較検討する。 (3)「20世紀東アジアの文学形式を再考する」と題した連続ワークショップを行い、近代の東アジアで様々に影響し合いながら消長した文体やジャンルといった形式が文学史上・社会史上に持つ意味を、近しい興味を持つ日本や中国の若手研究者と共に考察する。
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Causes of Carryover |
子供が幼いため、長期出張や国外出張が行いづらく、旅費が少なくなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度から勤め先の神戸や北京で連続ワークショップを開催する予定であり、また2015年9月にハーバード大学で開かれる沈従文学会での報告が決まっているので、その旅費や研究者招聘の費用に充てたい。
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Research Products
(3 results)