2015 Fiscal Year Research-status Report
中国近代文学における白話文体形成とジャンル間影響:欧化・方言・文言吸収の諸相から
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25870629
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Research Institution | Kobe City University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
津守 陽 神戸市外国語大学, 外国語学部, 准教授 (20609838)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 沈従文 / 郷土 / 詩化 / 散文化 / 詩論 / 文体 / 文学形式 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究成果は以下の3つに大きく分けられる。 (1)沈従文の「郷里空間」表現に関する考察の総括。交付申請時の「研究の目的」で書いたように、研究の着想には沈従文の「郷里空間」像に「美化された田園的風景」を解体するような異色の表現が見られることがある。本年度はこれに関する考察の総括として、特に近代文学の主流の一つである「人物の内面描写」に新たな地点を出現させたと考えられる「田舎の人間」像について、表現手法の面からその意義を考察した。 (2)沈従文の詩論から見る「詩」と「小説」のジャンル間影響に関する研究の着手。中国1930~40年代に起こった「小説の散文化/詩化」現象を考察するための基礎作業として、「詩化小説」の代表的作家の一人でもある沈従文の詩論の主張を年代ごとに整理した。その結果、この小説家において「詩の散文化」への反感と危惧は一貫しており、防止策として格律や詩の音楽性および方言詩への関心が発生していることや、その一方で詩の特性を自身の「文」に取り込むことを作家自身が意識していること、また当初は詩の題材と印象にのみ向かっていた眼差しが、教育者的立場を起点として1930年頃から文学史的思考が始まり、形式への注視に結びついていることなどがわかった。 (3)連続ワークショップ「20世紀東アジア:越境する文学形式と思考の流動」の立ち上げ。北京大学・中国社会科学院・武漢大学・香港教育学院・琉球大学・立命館大学などの若手研究者らとともに、研究プロジェクトを立ち上げた。以後2016年からの3年間、20世紀の東アジアで起こった言語や文体などの「形式」の越境に重点を置いて国内外で年に2回のワークショップを開催し、問題意識と研究成果を共有することを目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2013~14年度に遅れを取っていたが、2015年度にようやく本研究の第一段階に着手することができた。また交付申請時には、方言・欧化・文言など白話形成に流れ込んだ諸要素を腑分けすることを入り口として、沈従文をはじめとする諸作家の文体研究に切り込む予定であったが、沈従文の抽象表現や民国期詩壇における諸論争を考察する過程で、実際の文体の分析を行う以前に、小説家による詩論や詩人による小説論など、ジャンルを跨いだ議論の面で整理を行うことが先決であることに気づいた。このため本年度は分析手法と対象に変更を加え、沈従文の詩論整理に着手したところである。
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Strategy for Future Research Activity |
交付申請当初は、廃名・沈従文・汪曾祺の文体要素や、「土白入詩」「格律詩」など新月詩派の小説創作への影響、周作人・兪平伯をはじめとする小品文・随筆文体と小説文体との相互影響というように、比較的「広く浅い」文壇での相互影響面から小説文体の形成を捉えることに目標を定めていた。しかし研究を進めるうちに、この問題意識の及ぶ範囲には、当初想定していたよりもはるかに射程の長く複雑な相互影響関係が存在することが予想され、この手法では不明瞭な軌跡しか描けないことがわかってきた。そこでこれまでに研究蓄積のある沈従文研究に引き寄せる形で問題の再設定を行った。 最終年度となる2016年度においては、上述の連続ワークショップにおける発表を中心に、以下の三点の研究を行う。これによりまずは一人の小説家の文体意識を整理し、次年度以降もワークショップを中心とする共同研究を続けて行く上での基礎を築きたい。 (1)沈従文の詩論を整理することを通して、1930年代頃に小説・散文・詩の文体間相互影響に関してどのような議論が行われていたかを知る。 (2)沈従文の方言使用を通時的に整理し、「大衆」「民間」を描くディスクールとしてどのような位置にあったのかを考察する。 (3)日中戦争期に昆明および桂林で、沈従文・馮至・卞之琳・李広田・端木コウ[艸+長+共]良・駱賓基らが行った創作に、詩的な抽象表現による戦争・生命・文明への思索が多く行われていることから、戦時下の抽象表現の意義に関する研究に着手し、次年度以降に継続する。
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Causes of Carryover |
当初連続ワークショップの初回である北京大学の会議は2015年度中の開催を予定していたが、先方の都合により2016年度に繰り越された。よって、旅費として前倒し請求を行った金額のうち、約10万円が次年度使用額となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
北京大学での会議が6月に、また神戸市外国語大学での会議が12月に予定されている。次年度使用額はその旅費および謝金に使用する予定である。
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Research Products
(3 results)