2014 Fiscal Year Research-status Report
あらゆる「差異」を包摂する共生社会の実現に向けて:多様性受容社会カナダの検証
Project/Area Number |
25870664
|
Research Institution | Ryutsu Keizai University |
Principal Investigator |
下司 優里 流通経済大学, 社会学部, 講師 (40615738)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | カナダ・オンタリオ州 / 知的障害 / インクルージョン / 共生社会 / 補助学級 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、多様性の受容について今日、世界的に高い評価を受けているカナダが、「人間の『差異』をどう扱うか」というインクルーシブ社会で最大のタスクを社会不適応の典型とされる知的障害に対してどのように達成しようとしてきたのかを解明することを目的とする。平成26年度は次の研究作業を行い、成果を得た。 ①カナダと同様に、国連・障害者権利条約を早期に批准し、インクルージョンを推進しつつも、障害児の教育については分離教育形態を維持している国のなかで、代表であるドイツを検討対象として取り上げ、その制度と教育実態について実地での視察と聞取り調査を行った。 ②本研究の分析課題に基づき、カナダの知的障害関係団体、施設、および学校等の系統的資料を入手・整理した。 ③②において入手された資料の分析・読解を行った。その結果、次のことが明らかとなった。1910年代から20年代のカナダ・オンタリオ州では、精神薄弱を標的の一つとした社会衛生が女性団体や公衆・精神衛生関係者それぞれの立場から主張されていた。優生学に基づく断種の議論は時期を待たねばならなかったが、移民制限の強化と精神欠陥者の隔離保護は目前の課題であった。そのなかで、州立オリリア施設は経済的・効率的運営を目指す施設長を中心に年少児から高齢者、白痴から軽度精神薄弱者までの収容施設としての需要に応えてゆくのである。一方、同時期に精神薄弱者の主たる対応機関のもう一翼を担っていた公立学校でも、通常学級不適合の子どもを分離し、特別なカリキュラムと教育方法において処遇するため、とくに教育省移管後から精神薄弱学級が拡大してゆくこととなる。すなわち、20世紀初頭は社会衛生の議論が過熱する一方で、施設、公立学校精神薄弱学級ともに年少児の軽度精神薄弱という対象を重複させながら、分離保護機関として併存しながらそれぞれに拡大していく時期であったとみることができる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の第二年度である平成26年度は、主として(1)資料の継続的収集、(2)海外実地調査、(3)資料読解、研究討議の3つの作業を実施することを計画した。(1)については、本研究に必要な資料の約8割は初年度までに収集し終えていたこと、またカナダでの歴史資料電子化作業の進展により、予定よりも時間・経費が大幅に軽減できた。(2)については、ドイツでの実地調査を計画・実施したが、予定通り行われた。(3)については、(1)の作業がスムーズに進んだため、昨年に遅れていた部分の資料読解も進めることができ、研究全体として計画通りに進んでいる。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究の最終年度となる平成27年度は、次の2つの作業を行う。 ①研究考察と妥当性の検討:20世紀前半のカナダにおいて、知的障害に対してどのような問題意識があり、いかなる目的と方法においてこの問題に対処しようとしたのか、さらに、アメリカやイギリスといった関係他国の状況がカナダの知的障害者施策の成立と展開にどのような影響を与えたのかについて考察を深める。考察の妥当性については、日本およびカナダもしくはイギリスとアメリカの当該研究分野の研究者とのディスカッション等を通して検討する。 ②研究成果の発表:これまでの研究成果については、日本(特殊教育学会、日本社会福祉学会等)およびカナダ等の国外学会において研究発表を行い、関係研究者の意見を求めるとともに、積極的に学会誌への論文投稿を行う。
|