2013 Fiscal Year Research-status Report
少子高齢化社会における財産承継・管理の意義―扶養及び世話との関係を中心として
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25870722
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
西 希代子 慶應義塾大学, 法務研究科, 准教授 (40407333)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 少子高齢化社会 / 相続 / 扶養 / 信託 / 財産承継 |
Research Abstract |
はじめに、最適な研究手法を確認するための予備的な作業として、1近年の裁判例等に現れた相続及び扶養をめぐる紛争を分析し、現在の少子高齢化社会の法的な特徴を明らかにした。あわせて、2社会現象としての少子高齢化社会の現状把握に努めた。1からは、日本では、老親扶養、金銭換算が困難な面倒見等も含めて、その清算が相続まで持ち越され、相続の場面で一括解決を図ろうとする傾向が強いことが分かった。家庭裁判所の審判ではともかく、上級審で扶養に関する問題が争われることはあまり多くないのに対して、相続関係の事件は最上級審まで争われることが少なくないこともこの一つの表れであると考えられる。2については、高齢者の居住形態等も含めてデータを収集した。このような予備的作業をもとに、扶養をめぐる紛争よりも相続をめぐる紛争に力点をおいて考察を進める方針を固めることができた。 続いて、相続紛争の予防という観点からも注目を集めつつある信託に関して基礎的な知識を整理した。これは、相続に関する裁判例の分析に加えて、信託の利用方法を知ることで、現在の相続制度とは異なる財産移転に関する具体的な需要の一端が見えてくると考えたためである。特に、信託法改正時の学説における議論、立法者の説明等を繙くことによって、遺留分制度等、民法上の制約を受けることなく財産移転に関する被相続人の意思の実現を図ることができる制度としての期待も信託法によせられていたことがわかった。これらの分析を通して、民法上の相続制度と相続に求める被相続人の希望との間にずれが存在すること、さらにその具体的事項などが明らかになった。 以上のような日本法の現状をふまえて、参考になる外国法の研究に着手した。近年、大規模な相続法改正が行われたフランスの法制度の他、扶養に関する議論の蓄積があるドイツ法を参照することとし、今年度は、概説書の収集を中心に行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予備的考察として、日本法及び日本社会の現状の把握が進んだ点は、今度、研究を積み重ねていく上で、大変有意義であった。 他方、外国法に関する研究の進捗状況は、予定よりも若干遅れている。文献収集までは順調に進んだものの、情報量が多すぎるという事情もあり、その整理・分析に時間がかかっていることがその原因である。今後、より効率的に進められるように工夫したい。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終年度となる今後は、次の4点を中心に研究を深める。 第一に、引き続き、外国法の研究に力を注ぎたい。立法・実務の動きが激しいテーマでもあるため、難航が予想されるが、まずは、比較的メジャーな概説書を用いて現状を整理したい。その上で、信託法などの相続外財産移転制度に関する文献を集めたり、関連すると思われる部分について重点的に資料を収集したりするという方法をとる。また、人の死に伴う財産移転は、必ずしも法律の規定通りには行われず、公証人実務等における独自の財産承継方法、とりわけ遺留分制度の潜脱制度が普及している国も多く、相続法と信託など相続外財産移転制度との関係を考える際には、文献資料には表れない実態を知ることが重要になるため、できれば現地調査も行いたい。 第二に、それまでの外国の法制度及び実態に関する研究成果の整理を兼ねて、比較法から得た示唆をまとめる作業を行う。外国法における解釈方法をそのまま参考にするのではなく、そのような解釈の背後にある相続制度ないし扶養制度のあり方及び意義に関する考え方に留意し、それらの思想が日本法になじみやすいものか、また、従来の争点の解釈との整合性はどうかという観点からも検討する。 第三に、以上の研究をふまえて、財産承継と扶養・世話との関連づけの可能性及びそれを考慮に入れる解釈を具体的に検討する。特に、寄与分の認定とその限度、寄与分と遺留分制度との関係・計算方法、被相続人の遺言による意思実現を妨げる遺留分減殺請求権行使の制限など、現在は問題となることが少ないものの、今後、裁判例が増加すると考えられる論点について、解釈方法を考え、提示する。 第四に、冬以降、本研究全体を振り返り、反省点をまとめつつ、改めて次期の研究課題を検討することにしたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
扶養及び相続に関して法制度と実態との差異が大きい国について、現地調査を予定していたが、予想以上に日程の確保が困難であったために、断念せざるを得なかった。そのため、旅費及び調査に伴う人件費等の支出がなかった。 来年度、日程の確保が可能であれば、現地調査を行う予定であるが、困難な場合には、文献や関係資料の入手によって補いたい。
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