2014 Fiscal Year Research-status Report
越境と往来にみるエジプト人出稼ぎ者の社会的ネットワークとアイデンティティの民族誌
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25870734
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
岡戸 真幸 上智大学, グローバルスタディーズ研究科, 特別研究員 (00634338)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | エジプト / クウェート / 移民研究 / 家族・親族論 / 出稼ぎ労働者 / 社会的ネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、アラブ圏と英語圏それぞれに向かうエジプト人出稼ぎ者を対象として、彼らが仕事を目的として現地に滞在し、そこでどのような人間関係を構築し、また本国に残した家族・親族との関係をいかに維持するかについて、エジプト側からの追跡調査も含めて、双方から多現場的に検討する試みである。 本年度は、前年度クウェートで行った調査から、そこで調査対象になった者のうち、エジプトへ夏季に帰る者がいたため、その者にエジプトでも彼の生活を見せてもらうために、まずエジプトで調査を行った。エジプトでは、別のクウェートでの調査対象者の親族との面会も果たし、本人不在中のエジプト側親族の生活を観察した。また、エジプトにて、新たにクウェートで働く知人を紹介してもらい、彼らにクウェートで接見することにより、前年度の成果に加え、様々な職業に就く者から、クウェートでの人間関係や仕事について知ることができた。 これらの調査から、エジプトに家族・親族を残して単身でクウェートで働くことで、本人がエジプトで不在中に起こる問題ごとに即座に対処できない事例があった。このことから、物理的に離れることで、エジプトにいた頃と同じネットワークを保つことが、たとえ電話などで頻繁にやり取りをしていても難しいことが解った。さらに、クウェート側では、家族中心的な人間関係を形成するエジプトに対して、仕事中心の人間関係を構築すると分析してきたが、仕事上であっても自身が仕事をし日々生活をしていく上で必要とされる人間関係を浅くとも広く形成することが、本人の長期的な滞在につながることが見えてきた。 単身で仕事をする者が多いクウェートに比べると、カナダの調査結果から、カナダでは家族ごとの移住事例を多く見た。こうした生活形態の違いが、それぞれの国におけるネットワーク形成にも影響を与える可能性が考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、エジプトとクウェートで行った調査を元に、アジア中東学会連合大会において英語で発表し、来場者から多くの示唆に富む発言を得られ、意見交換ができた。学会等での調査報告とその内容を踏まえて現地調査をさらに行っていく方法は、次年度以降も続けていく予定である。本年度のエジプト調査は、本研究が、移動に伴う人間関係の多現場における形成を扱うために、調査対象者とエジプト、クウェート双方で会い、その生活を観察する必要性を調査の中で感じたために行った。こうした両国の往来をみることで、エジプトとクウェートにおけるエジプト人の人間関係への理解は深まった。 クウェートでの調査は、多くのエジプト人と接見でき、その中から調査対象者を絞ることで、さらに具体的な現地での人間関係を観察することができ、順調に進んでいる。 カナダに関しては、エジプト人移民の多いトロントと、先行研究のあるバンクーバーで調査を行った。日本において、統計や文献調査を行い、現地調査にて、アラブ系移民の支援機関や相互扶助団体を訪れた。また、エジプトに多くの信者がいるコプト教会を現地にて複数訪れた。宗教的な偏りがあるものの、コプト教会は、信者の交流の場として定着しており、60年代以降のエジプトの歴史の中でのコプト教徒の位置づけを理解しながら、今後さらなる成果が期待できる。ただし、エジプト人数人から来歴などの話を聞くことができたが、具体的な調査対象者の選定には至っておらず、エジプトとの関係をどう整理しながら、両国間の人の移動を捉えていくかが、今後の課題となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、エジプトを基点としたクウェート、カナダ双方それぞれのエジプト人の移動とそれぞれの国で構築される人間関係を比較考察することを目指している。クウェートについては順調に推移しており、本年度は新たな調査対象者を確保し、彼のエジプトにいる家族・親族との接触もできている。今後は、クウェートにおける調査内容をまとめて、論文にする作業を予定しているが、英語での研究発表の成果を元にした英語での執筆も念頭に置いている。カナダについても、同様にエジプトとの関係で、両国間でネットワークがいかに形成されるかをまとめる。最終的に、アラブ圏と英語圏双方でのネットワーク形成の異同についてまとめていきたい。 エジプト人のクウェート滞在は、就労ビザの関係で一時的にならざるを得ず、仕事を辞めた後は、大半のエジプト人が帰国を選択する。対して、移民政策が充実しているカナダでは、クウェートと異なり、長期的な移住も視野に入れて、家族を呼び寄せて生活するまたはそれを希望するエジプト人が多いが、今後の調査では、クウェートでの分析を活かして、その比較の上でカナダ社会におけるエジプト人の位置づけを考察していく。 また、本年度は、クウェートでの調査で、クウェート大学を訪問する機会が得られ、現地の人類学者と意見交換できた。カナダでも、ブリティッシュコロンビア大学を訪れ、現地の国際移動と移民政策を専門とする研究者と交流する機会を得られたが、クウェートと同様に現地の研究者との意見交換や将来的な共同研究の可能性は、今後も模索する必要がある。
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