2013 Fiscal Year Research-status Report
中途身体障害者エキスパートスポーツ選手を対象とした自己変容過程の質的分析
Project/Area Number |
25870857
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Matsumoto University |
Principal Investigator |
齊藤 茂 松本大学, 人間健康学部, 講師 (10454258)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 中途身体障害者エキスパートスポーツ選手 / パラリンピック / 自己変容 / ライフストーリー・インタビュー / 質的分析 |
Research Abstract |
従来、障害者における運動・スポーツは医学的リハビリテーションの一環として取り入れられてきた。しかし、近年では競技レベルの高まりを見せるパラリンピックに出場するためには,定められた標準記録の突破や世界ランキングの上位にランクインすることなどが求められるようになった。そして、パラリンピックが厳しい条件をクリアした世界のトップアスリートだけが出場できる国際競技大会へと成長したことにより、障害のあるトップアスリートへの強化・支援の確立が求められる時代となったと言える(内田,2012)。つまり、障害者スポーツ選手の場合、障害に目を向けるだけではなく、健常者の選手と同様に「エキスパートスポーツ選手」としての対応が肝要であり、こうした視点からの研究が必須となっている。 本研究では中途身体障害者のエキスパートスポーツ選手(運動機能障害、四肢切断及び視覚障害等を中途で受傷し、その後パラリンピック等の国際競技大会に出場した選手)を対象とし、彼らの受傷体験から卓越した競技力を獲得するまでの自己変容過程について、対象者の心理の深層にまで立ち入ったライフストーリー・インタビュー及び行動観察により明らかにすることを目的し、1年目の調査を行った。 結果として、対象者の受傷経験からリハビリ、障害の受容、そして障害者スポーツ選手として卓越したパフォーマンスを獲得するに至るまでの自己変容の過程が明らかとなりつつある。具体的には、ある対象者の事例から、1.対象者は受傷後、怪我や障害を受容せざるを得ず、代替選択肢を必要としていること、2.障害者(アスリート)として意味を見出しながら、リハビリや義足でのトレーニングへ自己を投資していく、3.最終的には、アスリートとして自己再生を果たすとともに、「人間として」の自己再生も果たしていく、といった自己変容の過程が明らかとなりつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は2年計画(平成25年度-26年度)の1年目であり、中途身体障害者のエキスパートスポーツ選手を対象としたインタビュー調査及び行動観察を行った。 1年目の成果として、対象者の受傷経験からリハビリ、障害の受容、そして障害者スポーツ選手として卓越したパフォーマンスを獲得するに至るまでの自己変容過程が明らかとなりつつある。 しかし、これまでに調査を終えた対象者の数は十分とは言えず、2年目となる今年度は、昨年度に引き続きインタビュー調査及び行動観察によるデータ収集を継続して行っていく。また、データ収集と並行して研究の成果のまとめを行っていき、質的データ分析(Côté et al.,1993及び北村他,2005)によるデータの構造化、中途身体障害者スポーツ選手の自己変容過程モデルの構築と進めていく予定である。 よって、当初の計画通りとまではいかないが、おおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度も継続してインタビュー調査を行っていく。その際、「雪だるま式標本法(機縁法)」(対象者から次に対象者になりうる人を紹介してもらう。これを次々に繰り返してインフォーマント数を増やしていく)(鈴木,2002)を適宜利用する。また、対象者の両親や指導者といった関係者を対象としたインタビュー調査の実施し、データ収集のトライアンギュレーション(Triangulation)を用いることで、より客観的な情報の収集をし、回顧的データの収集に関する方法論的信頼性を高めていく。 本研究の一先ずのゴールは、中途身体障害者スポーツ選手の自己変容過程モデルの構築であり、その成果は研究論文として発表する。さらにはこの研究成果をもとに、障害者スポーツ選手の心理的支援プログラムの開発へとつなげていき、障害者競技スポーツ科学サポート事業の心理的サポートへ新たな知見を提供ところまで目指していきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究の対象者は非常に数が少なく確保が困難であり、旅費および人件費(専門的知識の提供に対する謝金、トランスクライブ謝金)を予定より支出しなかったことが主な理由で残金が生じた。 引き続きデータ収集のための調査を継続して行うため、当初の予定より旅費および人件費の支出が必要となるため、今年度分の助成金と合わせて使用していく。また、当初から購入予定であったトランスクライブ用のパーソナルコンピューター等の購入にも使用する。
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