2014 Fiscal Year Research-status Report
公共的な対話活動の営みが果たす「シティズンシップ教育」の可能性に関する研究
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25870866
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Research Institution | Sugiyama Jogakuen University |
Principal Investigator |
三浦 隆宏 椙山女学園大学, 人間関係学部, 講師 (90633917)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 哲学カフェ / アクティブ・ラーニング / サードプレイス / それなりの市民 / 受援力 / アーレント |
Outline of Annual Research Achievements |
2年目となる平成26年度は、大阪(さする庵)、東京(Cafe klein Blue)、富山(アートNPOヒミング)、福岡(福岡大学付属図書館)で行なわれた公共的な対話の場の調査を研究代表者自身が進行役を務めることで実施するとともに、岡山でのこたつむりcafeや大阪での理カフェ(=サイエンスカフェ)といった「哲学カフェ」以外の対話の場をも調査することで、「公共的な対話活動」のテーマ・場所・規模の違いによる比較検討を主として行なった。 また、名古屋では昨年度より定期開催しているカフェティグレでの哲学カフェの他にも、当該年度からは新たに名駅西のカフェぶーれでもさまざまな対話の場を設けることを開始し、年間計24回の「市民との公共的な対話の場」を開くことができた。参加者数もコンスタントに15名前後を得ており、名古屋での「公共的な対話の場の常設化」という本研究の大きな目的は当該年度でほぼ達成できたと言える。 以上の実践研究に加え、今年度は「カフェ」という対話の場の特性を明らかにするために、討論型世論調査に代表される熟議民主主義に関する文献や「サードプレイス」をテーマとする文献を読み進めることで、本研究が照準を合わせる「それなりの市民でも気軽に立ち寄れる(=間口の広い)公共的な対話の場」の特徴を理論的に考察した。 そして以上の研究成果として、「哲学カフェとシティズンシップ」を主題とする論文を執筆し、査読を経て、年度内に公表することができた。2003年に「アーレント政治理論と哲学カフェ」をテーマとする論文を発表して以降、なかなかまとめることができなかった哲学カフェ論を論文化できたのは、当該年度の大きな研究実績である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
全国各地で行なわれている公共的な対話活動の調査・実践という目的において、当該年度は新たに福岡、富山、三重県鈴鹿といった場所においてもその立ち上げに関わることで実施できたものの、家庭の事情もあり大阪、東京での継続的な調査・実践を計画通り進めることができず、また前年度から持ち越すことになった仙台での公共的な対話の場の調査・実践も行なうことができなかった。 とはいえ、名古屋では毎月2回のペースで哲学カフェ、メタ哲学カフェ、漫画de哲学、書評カフェといった種々の対話の場を開くことができ、また岡山では商店街の空き店舗を利用した共同運営スペースという公と私のあわいのような場所で行なわれている対話実践を調査することができたことからも、「おおむね順調に進展」と判断してよいと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる平成27年度は、アーレントの判断力論を主に参照しつつ、観察者・共通感覚・範例といった概念に関する理論研究に取り組むことで、公共的な対話の場に参加することが「シティズンシップ教育」としてどのように有意に働くのかを検討し、その成果を論文としてまとめることに傾注する。 また、公共的な対話の場の常設化がほぼ果たされた名古屋においては、新たに「サイエンス×哲学カフェ」を開始することで、研究者によるアウトリーチ活動にとどまっているように思われる国内のサイエンスカフェに一石を投じるとともに、公共的な対話活動に関わることが研究者にどのような利点をもたらすのかの調査・分析にも取り組んでゆく。
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Causes of Carryover |
当該年度に交付された額にかんしてはほぼ使用することができたものの、前年度に繰り越した未使用分をそのまま次年度に繰り越すこととなった理由としては、以下の点を挙げることができる。 共働き家庭で1歳の幼児を抱えている身のため、土日の出張を極力抑えたこともあり、大阪および東京での公共的な対話の場の調査研究や学会への参加を予定通り遂行できず、また日程的に都合がつかなかったために、仙台での公共的な対話活動の調査を今年度も遂行できず、その分の旅費および宿泊費が未使用となったこと。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
過去2年間持ち越したままとなっている仙台での公共的な対話活動の調査に複数回当たるほか、名古屋での哲学カフェ参加者からの依頼を受けて長野での哲学カフェを実施する予定となっており、未使用分の多くはこれらの旅費に充てる予定である。 また、シティズンシップに関する文献資料はかなり収集できたものの、研究の進展により新たに居場所や住空間、都市設計に関わる文献を収集する必要を感じており、物品費としてこれらの資料収集に要する費用を見込んでいる。
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