2014 Fiscal Year Research-status Report
人道的介入の実践における倫理/非倫理の類型化-〈奪命の倫理〉探求の準備研究
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25870877
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
大庭 弘継 南山大学, 総合政策学部, 講師 (00609795)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 国際政治学 / 人道的介入 / 国連平和維持活動 / 保護する責任 / 奪命の倫理 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、研究報告ならびに論説の執筆、関連するシンポジウムの企画運営等を中心とした研究を行った。また前年度までに実施したコンゴ民主共和国並びに旧ユーゴスラヴィア諸国におけるインタビュー調査の結果を整理し、学会報告ならびに研究会報告を行った。インタビューの結果見えてきたのは、国際介入に対する期待の低さである。これは、コンゴ並びに旧ユーゴが、実際に国際介入を受けたがゆえに、その非効率さを目の当たりにしての失望が主要因にあるものと考える。本研究以前に調査したルワンダでは、国際介入が行われなかったがゆえに、「国際社会から見捨てられた」との声が聞かれたことから、難しい対比事例となっている。つまり介入されなかった人々の意見は、ある程度の犠牲を甘受しても国際介入を支持するが、介入された人々は介入による犠牲に批判的となってしまう、と。ここに反実仮想の陥穽が存在する。 以上を踏まえて、『国際政治のモラル・アポリア』を共編者として、2014年6月に刊行した。その際、犠牲の受容をめぐる上記の反実仮想の陥穽を明記することができた。 また研究報告についてであるが、2014年10月に日本政治学会において「最終決断としての人道的介入:不確実性と〆切」と題して報告を行った。2015年1月に、南山大学社会倫理研究所が主催した「超国家権力の出現に備えて」と題した研究会において「「人類のための犠牲」試論」と題して報告した。 さらに本研究に大きく関連する事例として、パンデミック・フルがある。そのパンデミック時の対応をめぐるシンポジウム、「パンデミックを考える その危険性と不確実性をめぐる政治・社会・倫理」を南山大学社会倫理研究所の担当者として企画し(上智大学生命倫理研究所との共催)、司会兼討論者として参加するとともに、編者として同シンポジウムの講演録を平成27年3月に刊行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度は、計画通り編著(『国際政治のモラル・アポリア』(2014年6月、ナカニシヤ出版、高橋良輔氏との共編))を刊行するとともに、コンゴ民主共和国での現地調査報告(「コンゴ訪問記」、『時報しゃりんけん』第7号(2014年8月、南山大学社会倫理研究所))を刊行することができた。日本政治学会ならびに南山大学での研究報告も行い概ね好評を得ている。さらに奪命の倫理を主題とするパンデミックのシンポジウムを実施でき、その研究成果として講演録を刊行することも出来た。計画通りの進展であると言える。 また本研究の目標を単著執筆においているが、原稿はほぼ完成しており、現在修正段階にある。 なお、上述の反実仮想の陥穽を踏まえ、単に犠牲者や救出者の多寡での判断では瑕疵があると判明した。そのため、倫理/非倫理の区分が容易に反転する要因を探求したものとなる予定である。 以上、当初計画とは若干異なる研究成果となるが、執筆を含めた研究そのものは順調に推移しているため、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
三年間の研究成果の集大成として、単著の執筆を中心に、27年度は研究を推進していく。本単著は、各種の人道的介入の事例を取り上げ、そこで生じた倫理的問題ならびに倫理的評価の反転可能性を含める予定である。なお、執筆を進めるにあたり、以下の三点に焦点を当てたい。 ①最新情勢の反映。研究代表者の研究は現在進行形の事象を取り扱うため、容易に時代遅れのものとなりかねない。特にシリア危機は、一昨年時点では介入に傾きかけて不介入となり、昨年いわゆるISの伸長に伴いテロとの戦いの文脈で介入が開始され、その一方で難民/国内避難民が1千万人を超過したままなど、変化と継続が同居する状況にある。そのため、研究代表者の研究がリアリテイの欠如したものとみなされる可能性が常に存在する。シリアのみならずマリ等での近年の事例を加味した研究へとアップデートする。 ②研究者からの批評。研究代表者の最終目標は、人道的介入のみならず、国際政治における「責任」概念に有益な論点を加えることにある。だが人道的介入を事例としているため、同様の問題関心を抱く他の研究者に響かない恐れがあることを危惧している。そのため、関連する他分野の研究者に草稿を批評してもらい、有益なフィードバックを獲得する。 ③概念のスクラップアンドビルド。人道的介入と国連平和維持活動の親近性に加えて、対テロ戦争もまた人道的介入と親近性を増しつつあると考えている。また「責任」概念と近年議論が盛んな「正義」や「善」との間の関係性も吟味の余地があろう。執筆を通じて、各種概念と用語の関連性の明確化もまた検討課題としたい。
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Causes of Carryover |
本研究に関連する研究会への参加のため、研究者招へい費用として次年度分の研究費を前倒し請求したが、その残金が生じ、次年度使用額となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初計画での支出を前倒ししたために生じた次年度使用額であり、次年度での学会出張ならびに資料収集で予定通り支出する予定である。
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Research Products
(4 results)