2013 Fiscal Year Research-status Report
大規模化するリスクに対する確率・統計モデルの構築―その適切な応用へ向けて
Project/Area Number |
25870879
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
松井 宗也 南山大学, 経営学部, 准教授 (70449031)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ポアソンクラスターモデル / 加法過程 / レヴィ過程 / フラクショナル微分 / フラクショナルモーメント |
Research Abstract |
本年度の研究実施計画は「(1)ポアソン・クラスターモデル(PCM)に関して、これまでhomogeneousであったポアソン過程をnon-homogenousなそれに拡張し、レヴィ過程をより柔軟性のある加法過程に拡張する。そして予測量とその誤差を導出する。(2)分散が存在しない場合にPCMの予測誤差の評価方法を確立する。方法としてはα次絶対モーメント(0<α<2)を用いるごく自然なものを考える。」であった。 研究の目的を簡単に復習しておくと(1)はPCMによる損害保険の支払い過程の近似精度をより良くするための拡張であり、(2)は分散がない場合に、予測誤差の評価方法を確立するための研究であった。 (1)に関しては、予定通りポアソン過程をnon-homogeneousなそれに拡張し、更にクラスター過程をレヴィ過程から加法過程のサブクラスに拡張した。拡張された2つの確率過程は、時間に関して非線型である。従って、時間と共にジャンプの数が減少する標本過程や、標本過程の季節変動制などにうまく対応できる。これは、損害保険の支払い過程をより良くモデル化できたことを意味する。欧州での保険に関する規制(ソルベンシー2)では、支払い過程を正確に表現した確率モデルを用いることが推奨されている。日本もこれを追従することを鑑みると、得られた結果は応用へ向け大きな前進と言える。 (2)に関しては、分布から求まる特性関数をフラクショナル微分してモーメントを求めるという方法で研究を進めた。いくつかの例に関しては、特性関数を用いた解析的な表現が得られた。それが難しい場合には、特性関数を用いて数値計算を行った。現在は論文却下時の査読レポートをもとに改良を試み、再び論文投稿を検討している。分散が無いモデルにおいても、工夫すれば予測誤差が評価できると分かったことは、この分野における重要な貢献と考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究目的の概要は、「保険への応用を中心として大規模化するリスクを適切に表現しうる確率モデルを構築する。その上でモデルの簡単で効率的な統計的処理方法を考える。加えてそのモデルの適応範囲(限界)も可能な限り明らかにする。そして、モデルを通じて大規模リスクへのより良い対処を実現することで人間社会に貢献する。」であった。そしてこの目的は、交付申請書に記載した4つの骨子を通じて達成される。それらの内の2つはモデルの統計的方法や検証で、次年度以降に遂行予定の計画である。従って本年度は 「(1)ポアソン・クラスターモデルを適切に構築することで、リスクの発生と付随する損失のプロセスを適切に表現し、将来の損失を正確に予測する。(2)分散が存在しない場合に、予測誤差の評価方法を考え、ポアソン・クラスターモデルに応用する。」の2つ骨子を達成できれば、研究の目的に関しても、その達成度は満足できるものであると考えてよい。 「研究実績の概要」欄でも述べたとおり、(1)に関してはおおむね達成できている。(2)に関しては、特性関数をフラクショナル微分してモーメントを求めるという方法で研究を進めた。そして結果がある程度纏まったので論文を作成した。分散が無い場合の評価方法の構築という点では、ある程度の結果が出たと言える。しかしながら、まだその方法をポアソン・クラスターモデルに適応していない。加えて、新たに効率的な数値計算方法のアイデアを思いついた。そのままフラクショナル微分を用いる方法で研究を進めるより、新しく思いついた方法で研究する方が貢献度は高いと考え、現在研究計画を修正中である。研究計画自体はやや遅れるものの、よりよい研究を行えるという意味ではうれしい誤算である。 これらのことを鑑み、多少遅れているところはあるものの、計画はおおむね順調であると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も交付申請書に記載した研究計画に沿って研究を進める。それは「11.現在までの達成度」欄に記載した4つの骨子の内の残りの2つ、「(3)ポアソン・クラスターモデル(PCM) を含め構築したモデルの簡単かつ効率な統計処理方法を考える。(4)モデルの有効的な状況と有効でない状況(限界)を明らかにすることで、誤用を避け、モデルの適切な応用・管理に資する。」の研究を進めることである。 ただし、研究を進めてみたところ、前述した2つの骨子(1)と(2)の研究に関して修正が必要であると分かった。まず(1)に関しては、モデルと実際のデータとの新たな齟齬が見つかった。それは、現在のモデルの枠組みでは、観測されたデータと予測される変数の間にある依存関係を適切に捉えられないことである。その理由は、モデルに用いられる確率過程が独立増分性を持つことによる。実際、ポアソン過程(non-homogeneous)を含めた加法過程は、例外なく独立増分性を持つ。そこで、昨年度半ばより、確率過程の増分に依存関係のある過程を用いてPCMを再構築している。もともとの研究目的は、保険の支払い過程を適切にモデル化することにあるので、このより優れたPCMモデルの構築を優先する。(2)に関しては、上述したように、新たに思いついた計算方法を研究したのち、それをPCMに応用する。以上、(1)と(2)に関しては交付申請書に記載された研究計画を修正することにする。ただし何れも、研究の目的に照らし合わせて考えると、必要不可欠な変更である。 このように(1)と(2)の研究を変更して実施し、そののちに残りの骨子(3)と(4)の研究を行うため、当初の計画よりも、(3)と(4)の研究に関しては、多少の遅れが出ることが予想される。今後も必要であれば変更は厭わないが、それが小さくなるように慎重に研究を進めていきたい。
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