2014 Fiscal Year Research-status Report
セルロースの芳香族ヒドロキシ酸エステル化による高加工性・抗菌性材料の開発
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25870921
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石井 大輔 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (70415074)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 芳香族ヒドロキシ酸 / セルロース誘導体 / フェルラ酸 / カフェ酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は昨年度合成を行った、フェルラ酸セルロースおよびカフェ酸セルロースの溶解性及び熱物性を検討した.フェルラ酸セルロースについてはN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)にわずかに溶解性が見られた。また熱物性に関して昇温下での偏光顕微鏡観察を行ったところ、熱軟化や溶融は観察されなかったが、300℃付近まで熱分解による褐変を示さない高い耐熱性を示した。 カフェ酸セルロースに関しては、塩化リチウム(LiCl)・DMAc中でのセルロースとカフェ酸のエステル化反応後、メタノール中における沈殿を試みたところ、ゲル状になって析出した。この生成したゲルはジメチルスルホキシドに部分可溶であったので、可溶部と不溶部に分けてそれぞれクロロホルム、フェノール、トリフルオロ酢酸への溶解性を調べたが、いずれの溶媒にも不溶であった。 これら芳香族セルロースエステルが熱可塑性や溶解性に乏しい原因として、カフェ酸ないしフェルラ酸自体のエステル化反応中における重合が考えられた。そこでフェルラ酸およびカフェ酸のそれぞれを、アセチル化後減圧下160~180℃での加熱により重合を行った。フェルラ酸に関しては分子量300程度のオリゴマーが得られ、このオリゴフェルラ酸は180℃および220℃付近で融点を示した。カフェ酸に関しては明瞭な融点は示さなかったが160℃以上で熱軟化に伴う流動性を示した。またポリフェルラ酸はLiCl・DMAcにわずかに可溶、ポリカフェ酸はクロロホルムに易溶であった。以上から、フェルラ酸およびカフェ酸の重合は、それぞれのセルロースエステルの溶解性および熱物性を低下させる要因としてはあまり寄与していないと考えられた。一方、これらのセルロースエステルにおいては相当量の水酸基の残存が赤外分光測定から認められたことから、残存水酸基による水素結合形成が熱可塑性および溶解性の主要な阻害要因として考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度当初計画に挙げた溶解性および熱物性に関しては概ね検討を完了した。一方で芳香族セルロースエステルにおける芳香族ヒドロキシ酸置換度の算出については、有機溶媒への溶解性に乏しいことから核磁気共鳴分光法による定量的解析が現状では困難なため、元素分析等の別の方法を今後検討する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
芳香族セルロースエステル中の残存水酸基が熱可塑性および溶解性の最も主要な阻害要因であることが明らかとなったので、セルロースエステル中に水酸基を残存させないための反応条件を検討する。このためには芳香族ヒドロキシ酸自体の反応性を向上させることが必要なため、保護基導入後の酸クロリド化などのカルボキシル基活性化を検討する。
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Causes of Carryover |
今年度所要額700,000円に関して、当初全額を試薬および実験用消耗品に充当する計画であったが、240,056円を使用することで所期の目的であるセルロースエステルの溶解性および熱物性に関する検討を達成した。一方セルロース芳香族ヒドロキシ酸エステルの熱物性検討に使用した加熱せん断装置に関してはヒーター断線または熱電対断線による故障が発生し、修理費として計212,760円を要した。また同時に実施した芳香族ヒドロキシ酸重合物の分析において、液体クロマトグラフィーに接続して用いる粘度検出器Viscostarの調整に129,600円を要した。また当該研究に関して、国際学会および国内学会(いずれも東京都内で実施のため旅費申請はせず)での成果発表および情報収集のための参加費用として計92.592円を要した。以上の合計675,008円を以て今年度の研究計画を達成したため、24,992円の残額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度所要額1,200,000円と併せて、実験用試薬および消耗品のための物品費に充当する予定である。
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