2014 Fiscal Year Research-status Report
民国期上海における映画の社会的役割に関する総合研究―「通俗」から「政治」への過程
Project/Area Number |
25870929
|
Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
菅原 慶乃 関西大学, 文学部, 教授 (30411490)
|
Project Period (FY) |
2013-02-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 幻灯 / 非商業上映 / ヘテロトピア / 映画館 / 何挺然 / 外国籍映画会社 / 江蘇省教育会 / 視覚メディア教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
主に上海における幻灯や映画受容の多様な経路についてさらなる情報収集と分析を遂行した。また特に幻灯や映画の非商業上映が定着した1910年代以降、幻灯・映画製作やその興行(上映)において、これらの新しい視覚メディアの「健全さ」や教育上の有用性が強調され始めることに着目し、(1)19世紀末から20世紀初頭の上海における幻灯・映画の非商業上映の系譜、(2)江蘇省教育会による1920年代の映画施策、(3)民国期上海における映画興行会社による映画上映空間近代化の動きについて研究を遂行した。(1)では、1880年代の上海の劇場・茶園における幻灯興行以降、映画が演劇の近代化と連動しながら伝統劇観賞文化の文脈で需要された一方、19世紀末以来の格致書院、中西書院、上海YMCA等、主に西洋式の知識伝授の諸機関における視覚メディア教材としての幻灯・映画利用が、伝統劇文化とは異なる幻灯・映画上映空間を形成していったことを、M.フーコーの「ヘテロトピア」概念を参照しながら明らかにした。(2)では、江蘇省教育会の映画施策を再検討した。従来の映画史研究では、同会が1923年に設立した映画審閲委員会は映画取締機関として捉えられてきた。本研究では、それらの施策はむしろ、江蘇省教育会やそれと密接な関係にある諸団体(特に中華職業教育社、上海YMCA、寧波同郷会)が、五四新文化運動の理念に傾倒した『春声』、『解放画報』、『影戯雑誌』等の雑誌メディアの同人たちと連動しながら、映画が社会教化やナショナリズムを体現しうる有力なメディアであることを示すためのものだったことを、明星影片公司設立の中心人物だった任矜蘋に焦点を当てて明らかにした。(3)は、映画の非商業上映のみならず、商業上映の主要な空間だった映画館においてもヘテロトピアとしての映画観賞文化の構築が行われた事例について北京大戯院創設者であった何挺然を中心に論じた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、映画伝来以降の上海における映画の非商業上映の諸相について明らかにすることができた。特に、1920年代初頭までは、非商業上映における幻灯・映画の上映環境と、商業上映におけるそれとが交錯する事例が多数見られることが新たにわかったことで、幻灯・映画上映空間の実態にかんする更なる事例収集と分析が必要であるという新たな課題を明確にすることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初の計画ではH27年度において外国の映画配給・興行会社による上海映画市場の寡占状況とそれに対する中国映画人たちのナショナリズムにもとづいた抵抗の軌跡を辿ることを想定していたが、これまでの研究成果、特に今年度論文として発表した外国籍映画館会社の諸活動などから、中国映画界と外国映画会社を対立させるような従来の映画史観では、中国映画界における多様なナショナリズムの有り様を把握することが困難であることが明らかとなった。今年度発表した諸研究成果においても明言しているように、中国映画界において、ナショナリズムは、映画上映空間や映画鑑賞マナーの改善、映画の教育的活用等、映画というメディアの全般的な近代化の文脈の中で捉えられるべきである。そこで、H27年度も引き続き幻灯・映画上映空間の研究を中核に行うが、とりわけ映画上映・観賞環境の近代化の諸相の分析に焦点化し、それが映画に対する社会の信頼を強化していった過程を実証的に分析していきたい。
|
Causes of Carryover |
端数のため無理に執行しなかった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
H27年度に配分された予算は、マイクロ化・デジタル化された資料や古書資料の購入費として重点的に執行する。さらに、上海図書館、上海市档案館等における資料収集のための旅費としても執行する予定である。その他、図書館相互利用を通じての資料収集代金、資料整理や目録化のための人件費に若干の予算を割くことを計画している。
|