2014 Fiscal Year Research-status Report
時系列幾何情報を用いた大規模遺跡の3次元計測とディジタルアーカイブへの応用
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25870970
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Research Institution | Nara University |
Principal Investigator |
正司 哲朗 奈良大学, 社会学部, 准教授 (20423048)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ディジタルアーカイブ / 3次元計測 / 写真測量 / モンゴル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は、歴史的文化遺産である遺跡の保護・保存を目指し、遺跡を効率良く3次元計測できる手法の開発と、ディジタルアーカイブへの応用である。 遺跡をディジタル化するために2種類の方法を利用した。1つは、Model Based Rendering(MBR)と呼ばれ、3Dスキャナーを利用して3次元計測する方法である。これは、3次元情報を持つために、あらゆる視点から遺跡を観測できるが、写実的ではないため、現状の遺跡の状態を把握することが難しい。もう1つは、Image Based Rendering(IBR)と呼ばれ、多視点画像を利用して、複数のパノラマ画像を利用する方法であり、円筒モデルや球モデルにパノラマ画像をマッピングし、各撮影位置にこれらを配置することによって、大規模な遺跡をディジタル化する方法である。3次元情報を持たないが、写実的な表現が可能であり、遺跡の現状を把握することが容易な方法である。 本年度では、上記で述べたMBRとIBRの2つの方法を用いて、モンゴル国ドルノド県ツァガーンオボー郡にある契丹(遼)に建立されたとされるヘルレンバルスホト1の仏塔のディジタル化を行った。 さらに、モンゴル国において、2013年度にディジタル化した遺跡である契丹(遼)の烽火台、同じく契丹(遼)の遺跡であるハル・ブフ城跡の上に、16世紀から17世紀頃に築かれた寺院跡を、「モンゴル国の遺跡ディジタルアーカイブ」というテーマでモンゴル国立カラコルム博物館において常設展示を行った。この展示では、21型タブレット端末を利用して、遺跡を自由に観測できるシステムを開発した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
簡易な3次元計測技術の開発については、規模が大きい遺跡ほど、計測に時間がかかるため、写真測量と空撮を組み合わせた手法の検討を行った。マルチコプターは、従来のラジコンヘリコプターに比べて操作性がよく、安定した飛行を可能にし、特にトレーニングを行う必要はない。また、カメラも小型化・高解像度化が進み、軽量のものもあるため、マルチコプターに小型カメラを搭載することが可能であり、遺跡を上空から撮影した2枚以上の多視点画像から写真測量を利用すると、地形情報が簡易に取得できることが分かった。 一方、地上で簡易に3次元計測するために、3Dスキャナーを平行移動させながら計測する手法に関しては、時系列幾何情報を展開したときに、相対的な位置情報を抽出することができるアルゴリズムの検討を進めているが、絶対位置情報と得られる相対位置情報との位置合わせ問題などを含めて、さらなる検討が必要である。 ディジタルアーカイブへの応用に関しては、3次元計測した仏塔を用いたVR(仮想現実)空間を構築するとともに、カラコルム博物館においてディジタル展示を行い、来館者が自由にデジタルコンテンツを触ることができるシステムを開発することで、研究者のみならず、一般市民でも自由に遺跡のバーチャルツアーを楽しむことができるようになった。また、モンゴル国立カラコルム博物館は、2011年に日本の資金援助によって建設されたものであり、そこに、研究成果を常設展示することで、国際貢献が非常に高い。
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Strategy for Future Research Activity |
簡易な3次元計測技術の開発については、地上と上空の2種類を利用することを検討する。地上の計測は、時系列情報から形状情報と相対位置情報の分離問題について、さらなる検討を進めていく。3次元装置を等速直線運動することで得られる時系列幾何情報から形状情報を安定して獲得できることが分かったが、装置を任意の速度、経路で移動した場合には、時系列幾何情報から形状情報と相対的な位置情報を分離することが難しいことがわかった。そのための手がかりとして、少数の基準点を設置することも視野に入れて、アルゴリズムの開発を進める。 また、上空からの計測については、マルチコプターを利用し、上空からステレオ画像を撮影し、上述した地上に設置した基準点を撮影する。得られたステレオ画像から写真測量により3次元計測を行う。次に、上空と地上からの3次元情報の位置合わせについては、地上に設置した少数の基準点をもとに、3次元情報を統合することで、広範囲な3次元計測を試みる。 ディジタルアーカイブへの応用に関しては、これまでディジタル化したモンゴル国の遺跡を3Dプリンタで出力したものを奈良大学博物館で展示することを検討している。また、カラコルム博物館のエルデニゾー寺院近くにある16世紀から17世紀ごろに築かれ、礎石以外は、すでに消失してしまっている寺院跡の3次元CG復元を行い、カラコルム博物館での展示を検討している。
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Causes of Carryover |
3次元計測の制御用PCとして、ノートPCを導入することを検討していたが、新しいOSが発表されるため、新OSに対応したハードウェア等が、2015年の秋以降に発売されるので今年度の導入は見送ったため、繰り越し金額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2015年度に奈良大学博物館で、「モンゴル国における遺跡調査とディジタルアーカイブ」というテーマで、ディジタル化した遺跡を3Dプリンタでレプリカを製作し、展示する計画がある。そのため、3Dプリンタの機種を検討した結果、ラーニングコスト・成功率などを考慮し、熱溶解積層タイプのものを、2015年度に導入する予定である。また、3次元計測の制御用PC、モンゴル国立カラコルム博物館が主催するワークショップで研究成果を発表するため、モンゴル国への旅費を支出予定である。
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