2015 Fiscal Year Research-status Report
時系列幾何情報を用いた大規模遺跡の3次元計測とディジタルアーカイブへの応用
Project/Area Number |
25870970
|
Research Institution | Nara University |
Principal Investigator |
正司 哲朗 奈良大学, 社会学部, 准教授 (20423048)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 3次元計測 / ディジタルアーカイブ / 画像計測 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は、歴史的文化遺産である遺跡の保護・保存を目指し、遺跡を効率良く3次元計測できる手法の開発である。従来の3次元計測方法では、3次元計測機を固定し、対象に既知パターンなどを設置した状態で計測する必要があり、非常に時間がかかるため、簡易な計測方法の開発が必要である。 本年度は、モンゴル国の遺跡を対象に、従来の3次元計測方法に加えて、無人飛行機(ドローン)を使った広範囲の3次元計測を試みた。対象は、モンゴル初の活仏であるザナバザルによって、1654年に建立された寺院跡Sardgiin Khiidである。この寺院跡は、ウランバートルから北西に約100kmのところにあり、北緯48度27分39.63秒、東経107度59分48.34秒、標高1970mに位置する。この寺院跡は中央寺院の周辺に4つの建物跡があり、中央寺院の正面に3つの仏塔跡が確認できる。まず、固定型の3次元計測機を用いて、中央寺院跡の計測を行った。計測結果から東西89m,南北76mであることが分かった。 さらに、無人飛行機(ドローン)を用いて、空撮を行い、得られた時系列画像から画像特徴点を抽出し、対応点探索を行い、3次元計測を行った。両者の精度を比較すると、無人飛行機(ドローン)を用いた画像計測のほうが、固定型の3次元計測機に比べて、精度が劣るものの短時間で広範囲を計測できる。また、固定型の3次元計測機では、地上からの計測を行うため、レーザ光が届かない箇所にはデータの欠損が見られるため、これらのデータを統合することで、欠損部分を減少できる可能性があることが分かった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度から平成27年度まで、モンゴル国の遺跡を対象に、3次元計測方法を検討するとともに、数多くの遺跡をディジタルアーカイブしてきた。また、ディジタルデータを応用するために、様々な展開を行った。 まずは、平成26年には、モンゴル国立カラコルム博物館において、「モンゴル国の遺跡ディジタルアーカイブ」というテーマで、常設展示を行った。その中で、来館者が大型タブレットを利用して、自由な視点で遺跡のディジタルデータを閲覧できるシステムの開発し展示している。この展示は、カラコルム博物館を訪れるモンゴル国内外の多くの来訪者から非常に高い評価を受けている。 平成27年には、奈良大学博物館・図書館において、企画展示「モンゴル国の遺跡調査とディジタルアーカイブ- 8世紀から17世紀までの城郭都市・寺院・仏塔のデジタル展示-」を行った。この展示においては、カラコルム博物館展示で開発した展示システム以外にも、AR(Augmented Reality)技術を用いた展示や、3Dプリンタを用いて、これまで計測した遺跡や遺物のレプリカを製作し、展示を行った。 さらに、点群データから特徴を抽出するアルゴリズムの検討を行い、視点やスケールに依存しない特徴量の抽出を行った。この特徴量は、固定型の3次元計測機から得られる点群データと、無人飛行機(ドローン)を利用した空撮から3次元計測を行い、得られる点群データの統合に利用できる可能性がある。 以上のことから、簡易な3次元計測方法の検討と、得られたディジタルデータの応用方法を同時に進めていることから、研究課題はおおむね順調に進展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、本研課題の最終年度であるため、以下のことを行い、成果をとりまとめる。まず、固定型3次元計測機から得られる点群データと、無人飛行機(ドローン)で空撮した時系列画像から特徴点を抽出し、3次元計測から得られた点群データを統合するアルゴリズムの検討を行う。本年度までに、点群データから特徴量を抽出するアルゴリズムを検討してきたが、膨大な点群データから安定した特徴量を高速で探索できるアルゴリズムの検討が必要である。統合精度を評価するためには、共通の既知パターンを設置し、統合する手法との比較も必要である。まずは、上記の手法の検討を国内で試行し、それを発展させて、モンゴル国の匈奴時代の遺跡を対象に、実施する予定である。 さらに、得られたディジタルデータを教育や産業分野に応用するために、体験型の大規模な仮想環境の構築を行う。具体的には、頭部搭載型ディスプレイ(HMD(Head Mounted Displays))、身体の動きを記録できるセンサー、歩行の動作を記録できるセンサーなど複数のセンサーを組み合わせることで、利用者が実際の手足を動かし、空間内で実際に歩行できるような没入感の高い仮想環境を構築する。そこに、本研究課題で得られたディジタルデータを仮想環境に取り込むことで、遺跡の現状や構造を仮想体験できるようになる。このような体験型仮想環境は、教育や産業分野など、非常に多くの分野で発展していく技術となりうる。 最後に、これらの仮想環境を誰でも利用できるように、Webページなどを通じて技術情報を公開する予定である。
|
Causes of Carryover |
本年度の主な支出は、モンゴル国への調査旅費、研究成果発表のための国内旅費、ディジタルアーカイブしたデータを博物館・図書館に展示するための出力装置として、3Dプリンタを購入した。また、広範囲の3次元計測を実現するために、無人飛行機(ドローン)を購入し、遺跡の空撮と3次元計測を試みた。 モンゴル国の往復旅費以外で、調査機材を運搬する費用が別途発生するが、調査機材の軽量化を試みたため、想定していた額の超過料金が発生しなかった。また、掲載が決定している原稿の別刷り代は、本年度中には請求されなかったため、当初計画の使用額に残額が生じた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、8月下旬から3週間ほどの日程で、モンゴル国において遺跡のディジタルアーカイブを実施するための出張旅費(350千円)、 および、それに伴い機材運搬のための超過料金(100千円)を支出する予定である。また、掲載が決定している原稿の別刷り代(50千円)、および調査に必要な消耗品(100千円)を計上する。また、成果を公開するためのレンタルサーバの賃借料(50千円)、および安価なセンサー類(80千円)、没入感の高い仮想環境を構築するために必要なソフトウェア類(50千円)を計上し、広く一般に研究成果を公表することを予定している。
|