2014 Fiscal Year Research-status Report
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25870979
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Research Institution | Hiroshima Shudo University |
Principal Investigator |
青竹 美佳 広島修道大学, 法学部, 准教授 (50380142)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 遺留分 / 相続 / 相続廃除 / ドイツ相続法 / ドイツ遺留分法 / ドイツ民法2333条 / 相続的協同関係 / 民法892条 |
Outline of Annual Research Achievements |
無縁社会における相続法制度のあり方を、相続廃除制度(民法892条、893条)に焦点を当てて検討した。無縁社会が形成されつつある現代の家族関係において、法律上形式的に相続人である者が必ず相続できるとする扱いは受け入れ難くなっている。たとえば、何十年も絶縁関係が続き、音信不通の状態にあった子が、親が死亡した際には相続人であるとして相続権を主張することは実質的に妥当ではないという問題がある。相続人から相続権を奪うことを認める民法上の相続廃除制度では、廃除の基準が明確ではなく、学説、判例においては「相続的協同関係を破壊」する行為があれば廃除できるという基準が定着している。この「相続的協同関係を破壊」する行為の現代的意義を明らかにすることにより、廃除の基準を再検討した。検討では、日本の相続廃除制度に対応するドイツの遺留分剥奪制度における議論を参考にした。その結果、日本の相続廃除の基準について、次のような試論を提示することができた。 第一に、相続廃除制度では、制裁的意義が後退し、基準は柔軟な解釈を許容する方向へと移り変わっているということ、さらに、親子関係の破綻を、廃除の可否において考慮することも不可能ではないということである。第二に、親子関係の破綻を廃除において考慮する場合には、婚外子や両親が離婚した子を相続法上差別する危険を孕んでいるということである。第三に、相続廃除制度は、最低限保障された遺留分を奪うことに本質があるために、廃除の基準については、遺留分の意義と連動した考察が不可欠ということである。 その結果、相続廃除の基準としての「相続的協同関係の破壊」の基準は、制裁的意義を薄め、相続人が被相続人の財産の維持・増加に寄与せず生活保障を必要としないなど、被相続人の意思に反してまで遺留分権を保障する意義がないことへと意味を変化させていくと結論づけた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成26年度には、年度の計画としていた相続廃除制度に焦点を当て、現代の無縁社会に対応した相続法理論の構築について試論を提示することができた。成果は、修道法学37巻1号に発表された。 さらに、平成27年度以降に検討を進めることを予定していた、相続人ではない者(非相続人)による財産承継の可能性の研究を、平成26年度の後半に進めることができた。とりわけ、相続人の配偶者(被相続人からみると嫁・婿)、事実上の配偶者、事実上の養子など、形式的には相続人ではない者が、被相続人の介護給付を行った場合に、そのような非相続人が、形式的な相続人に優先して財産を取得する可能性を検討した。 同研究では、これまでの学説と判例において形成された理論をもとに、現行民法のもとで、非相続人による介護給付を法的に評価することは妥当でありかつ可能であるとの私見を提示した。その理論構成として、介護給付をした非相続人は、財産権とりわけ不当利得による返還請求権を主張することにより、被相続人が残した財産を取得することが法的に可能でありかつ妥当な解決であると結論づけた。成果は、亜細亜女性法学第17号に発表された。 もっとも、同研究にはなお残された課題がある。主に、非相続人が財産権を主張する場合の手続の問題である。これは今後の検討課題として残される。 なお、平成26年度には、相続法理論を示す教材として、共著の『NBS家族法』の相続法部分を執筆し公刊することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度には遺留分制度を、平成26年度には相続廃除制度および寄与分制度を考察することにより、無縁社会におけるふさわしい相続法理論の構築を試みた。本研究では、無縁社会を家族関係が希薄化した社会という意味で使っているが、死者と家族らしい交流をもたなかった形式的な相続人ではなく、死者の財産を承継させるにふさわしい協同関係を築いてきた者に、死者の財産を承継させる法的可能性を検討している。 遺留分制度については、形式的な相続人にも最低限の相続分を保障するということが前提となった制度であるが、現行遺留分法規定を、実質的に遺留分を保障すべきか否かという具体的事情を考慮して遺留分額を算定できるよう解釈する可能性を検討した。相続廃除制度では、形式的な相続人を財産承継から除外する可能性を視野に入れ、廃除の基準について一定の結論を示した。また、寄与分制度については、死者と希薄な関係にある形式的な相続人よりも、介護給付などで死者に寄与してきた者が財産を取得する法的根拠を提示した。 平成27年度以降も、これまでと同様に、無縁社会において、形式的な相続人に過ぎない者の財産取得を制限し、実質的に財産を承継するべき関係の存否を重視した解釈論を考察する。平成27年度には、平成25年度に検討した遺留分制度に再度着目する。近年では、家族が介護を担うことが当然のことではなくなり、そのような状況の中で、介護給付を引き受けた者による介護給付を法的に高く評価する解釈論は正当性を得るようになっている。相続人である家族が介護を引き受けた場合には、寄与分制度において相続法上評価されるが、同様に、遺留分制度においても評価することができるかは、理論的にも実際的にも重要な問題である。そこで、平成27年度には、遺留分権利者または遺留分を請求された者が、財産権として介護給付の評価を受ける法的可能性を検討する。
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Causes of Carryover |
大学での業務のために、マックスプランク研究所での出張研究を実施することができなかったことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
家庭裁判月報56巻1号から最終号までのバックナンバーをはじめとする研究に不可欠な文献を収集する費用に、次年度使用額を当てる。
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[Book] 家族法2015
Author(s)
本山敦、青竹美佳、羽生香織、水野貴浩
Total Pages
143-213
Publisher
日本評論社