2013 Fiscal Year Research-status Report
「植物プランクトンの枯死に伴うリン化合物溶出モデル」の構築とインパクト予測
Project/Area Number |
25871086
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | National Institute for Environmental Studies |
Principal Investigator |
篠原 隆一郎 独立行政法人国立環境研究所, 地域環境研究センター, 研究員 (00610817)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 核磁気共鳴装置 / 懸濁物 / RNA、リン脂質 |
Research Abstract |
本研究は、植物プランクトンの枯死・流出に伴うリンの動態について把握するものであり、2013年度の研究は,その足がかりとなる湖沼内の懸濁物中に含まれるリンの時間変動を測定したものである。通常、湖水中のリンは,溶存態として2割程度の割合で存在しており、懸濁態として8割程度の割合で存在している。そのため,懸濁態として存在するリンの動態が重要であると考えられている。懸濁態として存在するリンのソースとして、植物プランクトンやバクテリア等に含まれるもの、泥に付着していたリンが風などによって巻き上げられたものなどが挙げられる。 そこで本研究では2013年度、霞ヶ浦臨湖実験施設周辺において、様々な条件下で懸濁物を採取し、核磁気共鳴装置(31P-NMR)を用いたリンの形態分析を行った.測定・観測項目は,炭素量、炭素安定同位体比及び気象条件(風,日射量,水温,気温)などである。 懸濁物中に含まれるリンの分析を行った結果、有機態リン化合物として、リン脂質、RNA、DNAが検出された。特にリン脂質・RNAに含まれるリンは、抽出された有機態リンの80%以上を占めていた。特に有機態リンの中でもRNA-Pが最も高い割合を示していた。これらの有機態リンの変動は、炭素量と有意な正の相関を示していた.これは,有機態リンが、炭素の変動に依存していることを示している。特にリン脂質、RNAが含まれるリンの形態は、植物プランクトンによる一次生産に依存しているものと推察された。 一方で,無機態リンは、オルトリン酸に加えて、ピロリン酸として存在していた。これらのリンは,生物態に多く含まれている他,巻き上がった泥に付着しているものと推察された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
植物プランクトンの一次生産に伴ってリン脂質、RNAなどが増加するという知見は今後のリンの動態研究に極めて重要な影響を与えると推察される。これまで、リンの動態、特に有機態リンの動態を把握するためには極めて基礎的な抽出方法、例えば、1mol/l程度の塩酸で抽出する方法、などが用いられてきた,しかし,本研究はそれを更に進めて,近年になって使用されてきている先駆的な手法(31P NMR)を用いることによって懸濁物中に含まれる具体的なリンの形態を明らかにした。 本研究は,これまでの研究に加えて新しい分析手法を提案した.以上の点から,本研究は概ね順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度における本研究の目標は,懸濁物に含まれる有機態リンの分解速度の測定,溶存態リンの分析手法の開発・モデル化を行うことである.懸濁物中に含まれるリンが分解されると,分解されたリンは,水中へ移行し,溶存態リンとなる.そこで,本研究は,今まで使用してきた31P NMRを用いた懸濁態リンの分析手法に加えて,酵素を用いた溶存態リンの分析手法を新たに開発するものである.本研究はそれを行った上で,リンの動態のモデル化を行うものである. 本研究で開発する,酵素を用いる分析手法には以下のメリットがある:① サンプル量が20ml程度と極めて微量で計測できること,② 核磁気共鳴装置を用いる方法より前処理が極めて単純であり、従来のリン酸定量方法を用いて直接定量をすることが可能なこと.これまでの研究成果によると、底泥中にはリン脂質、RNA、DNAなどが含まれているため,底泥間隙水中にもこれらの化合物が含まれている可能性が高い.そこで,酵素を用いた分析手法を用いて,底泥間隙水,湖水,懸濁物分解実験で得られた分解液などに含まれるリンの化合物形態を特定することが,本研究の目標の一つである. モデル化には夏季・冬季における懸濁物分解実験を行うことが必要である.実験手順は,以下のようなものである:① 霞ヶ浦において,懸濁物・湖水を採取する; ② ろ過湖水に採取した懸濁物を投入する; ③ 懸濁物濃度・溶存態リンの濃度の時間変化を測定する.これらの実験期間は約100日を予定している. これらの実験・手法開発を行うことによって,今後,植物プランクトン分解され、溶存態としてフィードバックが行われるプロセスの詳細が明らかになっていくという発展が期待される。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2013年度において購入した物品のうちの一部は、酵素を用いた実験に必要なものである。しかし、本実験は初めての試みとなるため、まずは必要不可欠となる数種の代表的な酵素のみを購入した。これは最初の予備実験であり、必要不可欠な物品のみを購入したため、次年度使用額が生じた。 今年度の実験では、予備実験に追加して、計画をしていたすべての実験を行う予定にしている。それらの予備実験の結果を現場に応用するため、次年度使用額を用いて研究を行っていく予定にしている。
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