2014 Fiscal Year Research-status Report
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25871093
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
木村 敦 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 量子ビーム応用研究センター, 研究員 (60465979)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | イオン液体 / 天然高分子 / ゲル / 放射線 / 架橋 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、イオン液体中の天然高分子の放射線架橋メカニズムを明らかにし、環境天然高分子ゲルの収率や特性の向上を目的とする。昨年度は、イオン液体中の天然高分子の放射線架橋反応メカニズムを明らかにするため、蛍光を発するイオン液体Dibutylimidazolium acetateの合成を行った。さらに、このイオン液体に20%のセルロースを溶解し、γ線照射を行うことによりセルロースの架橋ゲルを作製した。今年度は、(1)作製したセルロースゲルを洗浄したのちに蛍光分析を行ったところ、ゲル自身も蛍光を発することから、イオン液体を介した架橋によりセルロースゲルが生成することを明らかにした。さらに、セルロースゲルのX線光電子分光分析を行ったところ、セルロースには存在しない窒素の含有が認められたことから、セルロースゲルの生成にイオン液体が関与することが強く推察される。次に、(2)セルロースゲルの動的粘弾性測定を行い、作製したゲルが3次元ネットワークを有する化学ゲルであるか確かめた。測定条件80℃において、セルロースゲルの貯蔵弾性率が、未照射のものと比較して著しく増加し、同時に損失弾性率が減少したことから、化学結合を有するゲルであることが分かった。さらに、(3) 含水率の異なるセルロース・イオン液体溶液に放射線照射を行い、ゲルの生成収率が含水率の増加に伴い増大したことから、イオン液体中に含まれる水が天然高分子の架橋反応を促進する因子であることを明らかにした。(2)および(3)の研究成果は、国外査読付き学術雑誌であるRadiation Physics and Chemistry誌に投稿・掲載済みである(A. Kimura et al., Radiat, Phys. Chem., 103, 216, 2014)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度に作製した蛍光標識化したイオン液体Dibutylimidazolium acetateを用いた天然高分子セルロースゲルの蛍光分光およびX線光電子分光分析を行うことで、イオン液体を介した架橋によりセルロースゲルが生成したことを明らかにした。さらに、平成26年度の実験実施計画の基づき、含水率の異なるセルロース・イオン液体溶液に放射線照射を行い、生成したゲルの収率および動的粘弾性を評価することで、イオン液体中に含まれる水が天然高分子の架橋反応を促進する因子であることを明らかにした。 一方で、放射線により作製したセルロースゲルの電気伝導度評価が遅れており、平成26年度に実施することが出来なかった。同様に、イオン液体中、イオン液体/水混合溶液中、およびイオン液体/水/天然高分子混合溶液中の反応活性種の挙動を、活性種捕捉剤を利用したγ線分解により、段階的に明らかにする実験の進捗が遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度内に達成できなかったセルロースゲルの電気伝導度評価を平成27年度も継続して実施する予定である。同様に、各種放射線誘起活性種捕捉剤をイオン液体に溶解しγ線分解生成物を分析することで、イオン液体中、イオン液体/水混合溶液中、およびイオン液体/水/天然高分子混合溶液中の反応活性種の挙動を段階的に明らかにする予定である。また、平成27年度5月に行われる国際学会15th International Congress of Radiation Research、および8月に行われる13th Tihany symposium on radiation chemistryにおいて、本研究成果を発表する予定である。さらに、研究総括として一連の解析結果を総合的に評価するとともに、ゲル生成メカニズムの解析結果基づく最適なイオン液体の選定や照射条件などにフィードバックしてゲル分率や特性の向上を図る。
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Causes of Carryover |
実験計画の遅延により、天然高分子ゲルの電気伝導度評価に用いる消耗品、およびイオン液体中の天然高分子と放射線誘起活性種の反応挙動を明らかにするために必要な各種反応活性種捕捉剤の購入を一部取りやめたことにより、次年度の使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額については、天然高分子ゲルの電気伝導度評価に用いる消耗品、および各種活性種捕捉剤の購入に充てる予定である。さらに、次年度は研究総括として、研究成果を国内外に広く発信するため、国際学会である15th International Congress of Radiation Research、および13th Tihany symposium on radiation chemistryへの参加する予定であり、次年度使用額の一部を学会参加旅費に充てる予定である。
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