2014 Fiscal Year Research-status Report
社会的ストレスの環境要因がうつ病態の形成に与える影響についての基礎的研究
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25871162
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Research Institution | Tokyo Metropolitan Institute of Medical Science |
Principal Investigator |
松田 芳樹 公益財団法人東京都医学総合研究所, 精神行動医学研究分野, 主任研究員 (00409781)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 社会的敗北ストレス / うつ病 / interaction試験 / 社会的回避行動 / ラット |
Outline of Annual Research Achievements |
「いじめ」などの社会心理的ストレスはうつ病やそれに付随する病態を引き起こす要因の1つと考えられている。本研究の目的は、社会的敗北ストレスを新規改変した動物モデルを構築し、社会的ストレスの環境要因が行動的・身体的側面に与える影響について検証することである。昨年度はラットへのストレス負荷に用いる系統の組み合わせを選定したが、今年度はその方法論を用いて社会的行動や活動性の変化、摂食および嗜好性に対する影響について検証し、うつ病様状態を呈する新しいモデルとしての妥当性を評価した。ストレス負荷の方法は、昨年度と同様に、1日1回、直接的接触と間接的接触を組み合わせてストレスを負荷し、この工程を合計10回繰り返し行った。この操作の後、オープンフィールドにおけるinteraction試験を実施したところ、試験ラットはSocial targetがストレッサーラットである場合に接触回避行動を示したが、Social targetが試験ラットと同系統の場合においても接触回避行動を示したことから、このストレス環境は社会的回避行動に汎化を生じさせることが分かった。ストレス終了後には、対照群と比べて自発運動活性の有意な低下(P < 0.01)が生じており、ストレス環境下における摂食行動の顕著な減少(P < 0.01)も認められた。さらに、ストレス終了から1ヶ月後のショ糖嗜好性試験では、対照群に比して有意な嗜好性の低下(P < 0.05)が生じていた。これらのうつ病様行動は、連続したストレス環境の呈示により生じるが、単回のみの呈示の場合でも社会的回避行動を示す個体が確認された。本研究におけるストレス環境への暴露により、これらのうつ病様行動を惹起させることに成功したことから、うつ病の動物モデルとしての妥当性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ラットを用いた社会的敗北ストレスに関連する研究において、ストレッサーラットや、試験ラットと同系統のラットに社会的回避行動を誘発させることに成功した実験系はこれまで報告されていない。本年度の研究により、昨年度選定したストレス負荷方法を用いることで、社会的接触回避や摂食異常、嗜好性変化などのうつ病様行動を惹起させることに成功しており、ヒトのうつ病態を的確に反映した動物モデルを確立できたと考える。また、次年度に計画されている、ストレス環境の睡眠への影響を検証するための実験系の構築も現在進めており、長時間脳波記録システムのセットアップや、より精確な電気生理データの記録環境の整備を進めているところである。予備実験として、ストレス環境前後の脳波記録を実施し、あわせて解析も開始している。これらの現状を踏まえ、本年度の研究はおおむね順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度はうつ病パラメータのうち、回避行動や摂食行動、活動性や嗜好性などに注目して、ストレス環境による影響を検証した。来年度は、うつ病で好発する睡眠異常について、動物モデルを用いてより詳細に検証する予定である。うつ病では、入眠潜時の延長による入眠困難などのノンレム睡眠系の障害とともに、入眠後早期にレム睡眠が出現し、場合によっては多夢傾向を伴うようなレム睡眠異常が認められる。本研究で申請者が構築した社会心理的ストレス環境が、これらの睡眠パラメータに対してどのような変化をもたらすのかを詳細に検討する。これまでの予備的実験では、ストレス負荷後にレム睡眠の出現が増加する傾向も認められていることから、睡眠障害を呈したうつ病の動物モデルとしての有用性が期待できるものと思われる。
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Causes of Carryover |
実験系が確立し、実験が効率良く進んだことから、当初に予定していたよりも消耗品等の代金を少なくすることができたため当該助成金が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
ストレス負荷実験や行動試験、脳波記録のための慢性電極埋込手術などを行う際に研究補助が必要となる。そのため、研究補助員への謝金代、もしくは消耗品代金として使用する予定である。
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