2013 Fiscal Year Research-status Report
結膜線維芽細胞のエピジェネティック変化によるアレルギー炎症の増悪メカニズムの解明
Project/Area Number |
25871178
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | National Research Institute for Child Health and Development |
Principal Investigator |
岡田 直子 独立行政法人国立成育医療研究センター, その他部局等, 研究員 (50636165)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | アレルギー / エピジェネティクス / CCL11 / サイトカイン / 線維芽細胞 / 重症アレルギー性角結膜炎 |
Research Abstract |
重症アレルギー性角結膜炎は結膜の強い炎症や線維化を主体とし、合併症により重大な視機能障害を引き起こすが、難治化に至る機序は不明である。申請者はこれまでに、IFN-γが結膜線維芽細胞のエピジェネティック変化を引き起こし、CCL11の過剰な発現亢進に繋がる機序の存在を明らかにしている。本研究では①重症アレルギー性眼疾患患者の炎症局所における線維芽細胞のエピジェネティック変化の本態を明らかにし、②炎症局所でのエピジェネティクス制御因子を同定し、その機序を解明することを最終的な目標としている。当該年度の研究では、まず項目1に関し、重症アレルギー性角結膜炎患者と正常ドナーの結膜線維芽細胞をそれぞれ同一条件で培養し、IL4、TNFαで刺激を行った後、遺伝子発現変化について定量PCRを用いて比較検討した。その結果、CCL11やCCL26、ペリオスチンなどのアレルギー炎症関連遺伝子が、重症アレルギー性角結膜炎患者由来線維芽細胞において有意に発現増強されることがわかった。さらに、重症アレルギー性角結膜炎患者の結膜線維芽細胞において、無刺激状態でのヒストン修飾をクロマチン免疫沈降により調べたところ、正常由来に比べ、CCL11のプロモーター領域におけるH3K4me3が増加、H3K9me3が減少傾向を示すことがわかった。次に項目2に関し、重症アレルギー性角結膜炎患者の涙液中で高発現しているサイトカイン(IL4、IL13、IFNγ、IL17、TSLP、IL33、IL25)で正常結膜線維芽細胞を刺激し、7日目までの経時的な遺伝子発現変動を調べた。その結果、IL4、IL13がペリオスチンの発現を誘導し、かつwash out後にも持続的な発現が観察された。一方、IL17、IL25、TSLP、IL33は単独刺激条件においては、上記の遺伝子発現に影響しないことが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
項目1においては、同一環境で継代培養された、重症アレルギー性角結膜炎患者と正常ドナーの結膜線維芽細胞において、CCL11やCCL26、ペリオスチンなどのアレルギー炎症関連遺伝子が、重症アレルギー性角結膜炎患者由来線維芽細胞において有意に発現増強され、かつCCL11に関してはヒストン修飾状態とも相関があることが明らかになった。このことは、線維芽細胞が生体内で受けたサイトカイン環境などの影響によるエピジェネティック変化が、単離培養後にもしばらく継続して残ることを示している。すなわち、線維芽細胞が重症アレルギーの形質を獲得し、これが炎症の遷延化や重篤化を引き起こしていることを示唆する、当初の目標通りの結果を得られた。一方、生体内環境等の影響による線維芽細胞のエピジェネティック変化を観察するためには、何度も凍結保存や継代を重ねた結膜線維芽細胞では再現性が悪く、解析に適さない可能性があることがわかった。このため、新たに多くの細胞ラインを樹立する必要が生じ、予想以上の時間を費やした。よって、当該年度に予定していた重症アレルギー性角結膜炎由来結膜線維芽細胞における「アレルギー重症化遺伝子」の網羅的遺伝子発現解析については、遺伝子発現解析用のサンプリングまでとし、マイクロアレイ解析については次年度の課題とした。項目2においては、IFNγに加え、新たにIL4、IL13がペリオスチンの持続的な発現誘導を引き起こすことを明らかにした。これらのサイトカインが、アレルギー増悪に関連したエピジェネティクス変化の誘導因子としても機能する可能性が示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
項目1においては、まず、平成25年度に予定していた重症アレルギー性角結膜炎由来結膜線維芽細胞における「アレルギー重症化遺伝子」の網羅的遺伝子発現解析を実施する。次に、平成25年度と前項で得られた結果を基に、重症アレルギー性角結膜炎患者由来の結膜線維芽細胞で高発現する遺伝子群が、生体環境内においてエピジェネティック変換を誘導されていることを確認する。具体的には、クロマチン免疫沈降法を用いて各遺伝子のプロモーター領域におけるヒストン修飾状態を検討する。特にCCL11において変化が見られたH3K4me3およびH3K9me3のヒストン修飾については詳細に検討し、エピジェネティック変換の共通性を見出す。ここでエピジェネティック変換が検証できなかった場合には、他のヒストン修飾(H3K27me3、AceH3など)についても検討範囲を広げて行う。項目2においては、平成25年度に得られた結果を基に、生体環境内において誘導されるエピジェネティック変換誘導の機序として、炎症局所に高発現しているサイトカインが関与しているかについて検証する。具体的には、ペリオスチンの持続的な遺伝子発現誘導を引き起こすことが明らかとなったIL4、IL13について、正常結膜線維芽細胞を用いて刺激実験を行い、プロモーター領域のヒストン修飾状態を検討する。この際、検討するヒストン修飾は項目1で得られた結果を参考にし、生体環境内で誘導されたと考えられるエピジェネティクス変化と各サイトカインが誘導するエピジェネティック変化の相違を検証する。さらに、ここまでで明らかとなったエピジェネティック変化をターゲットとし、FK506 やステロイドなどの薬剤投与試験や、各サイトカインの下流分子に対するsiRNAの細胞導入実験を行い、IFNγ、IL4、IL13が誘導するエピジェネティック変化のメカニズムと制御機構を検証する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度研究計画の項目1、重症アレルギー性角結膜炎由来結膜線維芽細胞における「アレルギー重症化遺伝子」の網羅的遺伝子発現解析について、当初は、予めストックしておいた患者由来の培養線維芽細胞を再培養し、検討に用いる予定であった。しかし、研究過程で、生体内環境等の影響による線維芽細胞のエピジェネティック変化を観察するためには、何度も凍結保存や継代を重ねた結膜線維芽細胞では再現性が悪く、解析に適さない可能性があることがわかった。このため、本研究を遂行するにあたり、新たに多くの細胞ラインを樹立する必要が生じ、この過程に予想以上の時間を費やすことになった。よって、本検討はスケジュールを一部見直し、平成25年度は遺伝子発現解析用のサンプリングまでとし、マイクロアレイ解析については次年度の課題とした。上記にともない、本年度の研究費残額は解析等の諸費用の一部として次年度改めて使用予定である。 免疫染色、Western blottingおよびクロマチン免疫沈降用抗体、qPCR、ELISA、クロマチン免疫沈降などに用いる抗体以外の試薬(プライマーセット、アッセイキット、磁気ビーズ、専用バッファーなど)の購入、各種プライマリー培養線維芽細胞の維持管理に必要な試薬、消耗品(培養液、抗生剤、Trypsin-EDTAなどの継代試薬、各種プラスチックウェア、ピペット、チップなど)の購入、各種学会への参加費(国内、海外)などを予定している。
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