2013 Fiscal Year Annual Research Report
視覚及び触覚情報間に存在する統計的規則性の抽出・学習特性の解明
Project/Area Number |
25880023
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
|
Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
坂野 逸紀 関西学院大学, 文学研究科, 博士研究員 (00707440)
|
Project Period (FY) |
2013-08-30 – 2015-03-31
|
Keywords | 実験心理学 / 認知科学 / 統計的要約 / 視触覚間相互作用 / 学習 / PHANToM |
Research Abstract |
<目的>本研究の目的は、視覚情報・触覚情報の対応付けを行うにあたって、その間に潜む統計的規則性をヒトがどのように抽出・学習するのか、その特性を明らかにすることである。物体の属性として得られる視覚情報や触覚情報は連続的な量で表されるが、我々がその対応付けをどのように学習していくのかについては、現時点では殆ど明らかでない。この問題に対して考えられるアイデアとして、視触覚情報の対応に関する経験からヒトがそれらを結ぶ関数関係、すなわち統計的規則性を取り出しているというものがある。このアイデアを検証するために、本研究では1.ヒトが統計的規則性を抽出する能力を持っていること、2.その規則に基づき、未知の量に対する対応付けを実現していることの2点を検討する。 <具体的内容>平成25年度は、1の問題、すなわち視触覚の間に潜む統計的規則性に対する感度を確かに持っているのかについて検討を行った。今回、視覚量として輝度、触覚量として剛性という特徴を用いた。実験協力者は、様々な輝度と剛性を同時に感じるという事態を複数回経験し、その間に潜む規則性の大小をニ肢強制選択法で判断することを求められた。規則性は、互いの心理量がどの程度明確に線形関係を持っているかで定義された。結果、協力者は規則性の高い方を選べること、またその感度には指向性が無く、「明るいほどかたい」場合と「明るいほどやわらかい」場合のどちらでも同程度に規則性を見いだせることが分かった。 <意義・重要性>この結果は、我々が共起する個々の視触覚経験を統合し、抽象化された線形規則として理解できることを示唆する。この知見は特定のモダリティ内で検討されていた統計量知覚を多感覚レベルに拡張するという意味でも重要といえる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度の目的は「統計的規則性の程度を直接評価する課題を構築すること」「統計的規則性に対する感度をパラメトリックに測定し、規則性を抽出する能力を評価する」ことであった。開始当初は、評価課題の構築を行った。具体的作業は、使うべき特徴次元・評価すべき指標・課題として用いる規則性の定義・実験協力者に呈示すべき視触覚量の数・呈示時間の確定である。これらについては、当該年度のうちに実現することが出来た。また、規則性知覚を考える上で、物理量よりも実際に感じる感覚のマグニチュード、すなわち心理量の方が重要であると考え、その変換関数を決定するための予備実験を行った。 次に構築された課題を用い、規則性に対する知覚能力をヒトが有しているのかを実験的に検証した。その結果、協力者は規則性の高低をチャンスレベル以上に弁別できることが分かった。また、データ解析を通じて弁別能力は試行ごとに用意された相関係数の絶対的な大きさに依存することが分かった。続いて実験では、規則性知覚の指向性を検討した。これは当初計画していたものとは異なるものであるが、規則性知覚のメカニズムを明らかにする上で必要な実験であると判断し、実行した。結果として、少なくとも輝度と剛性の統計的連関を反転しただけでは、知覚能力の低下はみられないことが分かった。 実験から得られた知見は、規則性知覚メカニズムを解明する上で重要な情報を提供している。以上のことより、本年度の成果はおおむね順調に進展したものであるとみなすことができる。
|
Strategy for Future Research Activity |
【昨年度の継続】:研究を遂行する過程で、系列呈示された各要素がどの程度・どのような心的過程を経て弁別に寄与しているのかという新しい問いが生じた。本来の計画に並行して追求する予定である。 【本年度の計画】:いくつかの対応関係を学習した際に、統計的規則性を元にその隙間にある量の対応関係(内挿)、あるいは学習した範囲よりも外側の量の対応関係(外挿)を構築しているのかを評価する。 昨年度と同様、輝度、剛性を特徴として扱う。刺激系列の呈示時間、系列数も平成25年度に行った実験に準じる。本実験は訓練前テスト、訓練、訓練後テストの3セッションから成る。また、訓練条件(内挿・外挿)に応じて、協力者を2分割する。訓練時の系列では、視触覚の情報が次々と与えられる中、その量的関係に暗に規則性をもたせる。規則性の検出を課題とはしないが、刺激に注意を向けるのをやめないよう、稀に物体サイズの変化、あるいは周期的な触覚振動を起こし、協力者にそれらの回数を報告させる。訓練時に用いられる視触覚量は、装置が呈示可能な範囲のうちの一部とする。内挿条件では、呈示しうる視触覚量のうち、「暗い」かつ「柔らかい」か、「明るい」かつ「固い」組合せのみを呈示する。外挿条件では、「暗い」かつ「柔らかい」組合せのみを呈示する。訓練前・訓練後テスト段階では、輝度に対するマッチング課題を行う。物体を2回視覚呈示し、2番目の物体が持つ輝度が1番目より明るいか否かをなるべく早く、かつ正確に答える。このとき、2番目の呈示において触覚情報を同時に与える。この課題における反応時間は、視触覚の対応付けが内的な知識と整合しない場合に遅くなる。訓練段階で経験した範囲の量に加え、経験していない範囲においても反応時間の遅延効果が生じるかを訓練前・訓練後テストの比較から評価する。
|