2013 Fiscal Year Annual Research Report
心筋細胞実形状を用いた統合解析による微細構造や機能分子が収縮に与える影響の解明
Project/Area Number |
25882010
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Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
波田野 明日可 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (20707202)
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Project Period (FY) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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Keywords | 心筋細胞 / 有限要素法 / マルチフィジックス / 国際情報交換 / アメリカ |
Research Abstract |
心筋細胞の収縮においては,生化学現象,電気現象,および力学現象が複雑に相互作用する.現在,各現象を担う機能分子や微細構造に関する膨大な知見が蓄積されている一方,それらの相互作用を考慮した収縮メカニズムの統合的理解はいまだ不十分であるため,心筋細胞の統合シミュレーションの重要性が高まっている.しかし,生化学・電気・力学の全てを統合したモデルは確立されているとはいえない.本研究ではこれまでに申請者らが構築した電気・生理・代謝統合解析モデルを高度化し,高い空間解像度で微細構造再現し,局所的な濃度場・電位場・応力場を高い空間解像度で表現することを大きな目的の一つとしていた. 平成25年度には,心筋細胞微細構造の3次元電子顕微鏡観察について先駆的研究を行っているカリフォルニア大学サンディエゴ校のグループを訪問し,申請者らのこれまでの研究に関する報告の場を設けていただいた.実際に細胞実験を行う立場から細胞モデルへの要望について様々な意見を聞くことができた.さらに,最新の心筋細胞微細構造の3次元データ・メッシュデータの提供を受け,データ処理のノウハウを教えていただき,微細構造を表現した統合解析モデルの実現に大きく前進した. また,平成25年度には計算機環境を整備し,新たに取り組んだ酸素濃度場の解析を取り入れたモデルの計算を行った.この解析結果は2014年2月にはサンフランシスコで行われたAnnual Meeting of Biophysical Societyにて口頭発表を行い,現在論文として取りまとめているところである.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では,平成25年度は計算モデルの構築に専念し,平成26年度に共同研究者の協力を得てメッシュ作成に取り掛かる計画であったが,共同研究先との打ち合わせや訪問の日程が早まったため,25年度に微細構造メッシュ作成を前倒しで行った.これにより半筋節長,ミトコンドリアと筋原線維を含んだ領域の有限要素メッシュを実現できた.微細構造の3次元データの提供を受けて改めて困難に気づく点も多く,先に取り掛かることができたことは計算モデルに必要な要素を明確化できたという点で大きな利点であった.また実験を行う立場からの計算モデルへの要望を受けたことも同様である.当初25年度に行う予定であったシミュレータの拡張・改良,機能分子モデルの改善などは予定半ばであるが,26年度に引き続き行う予定であり,おおむね順調に進んでいると考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度に得た微細構造有限要素メッシュに対し,三相理論を適用した有限要素法統合シミュレータを適用することがまず重要な第一歩となる.新メッシュに適用するにあたっては計算量が数桁増大することが考えられるが,以前取り組んだ並列化による大規模化と時間離散化の工夫により対応する.筋小胞体はこれまで線要素のネットワークで形状を表現していたが,新メッシュでは膜に囲まれた体積ある領域として定義している.内部の拡散,膜上でのイオンチャネルの分布を取り扱い,その影響を考察する.ミトコンドリア内膜の膜電位はこれまで周辺の電位と分離して簡便に扱ってきたが,イオンの挙動に影響を与える可能性があるため細胞膜と同様に扱い三相理論の枠組みの中で統一的に表現する. 機能タンパクのモデルに関しては,Ca2+放出,ミトコンドリアのCa2+制御,エネルギー代謝を担うものを重点的に検討する.シミュレータの時間・空間解像度は実験を遥かに超えているため,タンパクのノックダウンによる変化など,計測可能な細胞の平均値としての挙動が実験を再現することを確認し,モデルの検証とする.また一方で,Ca2+放出口周辺のCa2+濃度,ミトコンドリア内のCa2+濃度,膜直下のATP濃度などの分布や時間変化を計測する試みは多く行われている.最新のデータでモデルの確かさをより強固なものとする. このような取り組みにより,分子レベルでの個々の知見が細胞機能に与える影響を検討できる世界で最も精密なモデルを作成し,分子レベルの知見を細胞の知見として昇華させ,医学・薬学に生かすことを目指す.
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