2013 Fiscal Year Annual Research Report
災害対策に対する地域住民受容解の探索を目指した意思決定手法の開発
Project/Area Number |
25882040
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Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
豊田 祐輔 立命館大学, 政策科学部, 准教授 (00706616)
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Project Period (FY) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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Keywords | 意思決定 / 洪水 / ゲーミング・シミュレーション / 地域コミュニティ / アユタヤ |
Research Abstract |
本研究では、2011年タイ大洪水によって被災した世界遺産アユタヤを対象に地域住民や観光客などのアユタヤへの経済的価値ならびに寄付促進要因をアンケート調査などから明らかにし、文化遺産によってアイデンティティや経済的に支えられている地域住民と、世界遺産の歴史・文化的価値を享受する観光客による経済的側面に着目した文化遺産保護政策を検討することを目的としている。 2013年度は、これまでの現地聞き取り調査から、本洪水では土嚢などの洪水対策が市場面積を狭めるため商業主の協力を得られなかったという事実を整理し、住民の生業と文化遺産防災の軋轢を露呈した洪水であったことを確認した。さらに、文化遺産防災における住民の生業とのバランスをとっていくためにリスク・コミュニケーションが重要であり、そのリスク・コミュニケーションを促進する道具として、災害を仮想世界で体験することで安全に災害教訓を得ることができる学習ツールであるゲーミング・シミュレーションを提示し、本研究におけるフレームワークを開発した。 本フレームワークは、「要望解(住民らが望む生業を中心とした洪水対策)」と「最適解(文化遺産防災に比重を置いた防災満足解)」、ならびに解の評価軸である経済被害推計式から成り立っている。本フレームワークでは、「要望解」ならびに推計式の開発は地域住民を対象とした質問票調査、そして「最適解」の同定は洪水シミュレーションに関するデータによって獲得することができる。そしてゲーミング・シミュレーションにおいては、参加者の要望解をプレイ前に同定し、仮想世界において探索された受容解の方が経済被害緩和の面で優れていることを検証することができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は、要望解と最適解の乖離を少しでも埋めるための受容解探索のための新たな意思決定手法を、事例を通じて構築することを目的としていた。 どうしても災害から守らなければならないものがある場合は、堤防などのハード対策の重要性が増すことになり、要望解と最適解の乖離が表面化する典型的な事例となる。このような事例であるアユタヤにおいて現地調査を実施し、洪水時の状況を把握するとともに、洪水後の商店などの経済復興状況について簡易調査を実施した。 このような要素から、新たな意思決定手法として着目してきたゲーミング・シミュレーションのフレームワークを作成した。特にそれは、「要望解」と「最適解」、ならびに解の評価軸である経済被害推計式から成り立っており、2011年アユタヤ洪水を事例とした要望解(特に、アユタヤというへの洪水浸水を許した場所である市場の商店主の行動)と最適解(アユタヤ市による対策、など)、そして簡略化した3年間に渡る経済への影響を明らかにすることで、ゲーミング・シミュレーションのフレームワークに具体的な変数を投入することができ、意思決定手法の開発が進んだ。 このように当初の目的であった、受容解探索のための新たな意思決定手法の開発に向けて研究は順調に進んでおり、今後はさらに精緻化したモデルを開発してフレームワークに落としこむととむとともに、意思決定手法であるゲーミング・シミュレーションを試行することための準備が整ったと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
仮想世界における受容解の同定と評価を目的とする。具体的には、最適解と要望解の間にあるであろう受容解を探索するためのゲーミング・シミュレーション(GS)を開発し実施する。特にGSは、仮想世界において異なる立場の役割を担うことができるとともに、災害による文化遺産の喪失による影響も仮想体験することができる。このように、それぞれの立場について、これまで感じなかった「気づき」を通して学習することによる相互理解を促進することに活用できる。さらにGSは仮想世界を体験することによって、モデルの総体的かつ動態的な理解、つまり事象(ここでは洪水シミュレーションとその被害推計)のゲシュタルト的な理解を促す効果を有していることから、本研究においては住民同士の相互理解だけでなく、合理的な基準で決定されるハード対策とその効果についても、意思決定時の参考という程度ではなく、認知された重要な情報として意思決定を左右することになる。 ここで開発したGSののプロトタイプは、まず日本の大学生へ実施し、改良を加えるとともに、プレイアビリティ(プレイのしやすさ)を高め、完成度を高めていく。さらにアユタヤの事情に明るい主にタイ・タマサート大学のGSを学ぶ大学生を対象に実施することによって、タイの事情、文化に適したGSに仕上げる。 そして、完成版をタマサート大学生からの協力を得て、事例コミュニティの住民向けに実施する。まず、GSの実施前にGS参加住民に現時点での要望解を聴き取り調査で明らかにし、洪水の経済的被害シミュレーションにより予め評価する。そして、GSで次々と探索される受容解候補について洪水経済被害のシミュレーションを逐一実施することで、参加者にフィードバックする。これを繰り返すことによって受容解を導くことができ、さらにその受容解が経済的被害軽減という面で優れていることを証明する。
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Research Products
(11 results)