2013 Fiscal Year Annual Research Report
近赤外光で弾性が制御可能なゲルを用いる細胞運動の時空間解析
Project/Area Number |
25882048
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Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
上村 真生 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, 研究員 (80706888)
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Project Period (FY) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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Keywords | ゲル / 細胞 / パターニング / ポリエチレングリコール / 細胞移動 / 細胞接着 / 細胞外マトリクス / バイオマテリアル |
Research Abstract |
細胞が自らの居場所を変化させる細胞移動現象において、細胞外マトリクス(ECM)の力学的特性が細胞の移動挙動に影響を及ぼすことが指摘されている。本研究では、近赤外(NIR)光により弾性が変化する新奇なゲルを開発し、このゲルを細胞培養基板に用いて、ゲルの弾性が細胞の運動性に及ぼす影響を時空間的に解析し、ECMの弾性が細胞移動現象に与える影響を明らかにすることを目的としている。本年度は、NIR光応答性ゲルを用いた細胞移動観察に向けて、まず弾性が異なるアクリルアミド-ビスアクリルアミド共重合体ゲル(アクリルアミドゲル)の作製およびそのゲル上での細胞培養、細胞移動の観察を行うことで、研究の基盤技術を確立した。まず弾性が異なるアクリルアミドゲルをカバーガラス上に作製し、このゲル表面にpoly-D-lysine (PDL)を修飾することで、基板表面にアミノ基を有し、高い細胞付着性を持つ表面を作製した。さらにPDL修飾ゲル表面上に、ポリエチレングリコール(PEG)鎖末端に光分解基を有するポリマーを修飾し、UV光照射を行うことで、細胞パターンを作製した。この際、フォトマスクのパターンを変えることによって、様々な形状の細胞パターンを、弾性の異なるゲル上に作ることに成功した。ストライプ状の一次細胞パターンに二次UV光照射を行った際には、弾性の高いゲル上ほど細胞の移動が速くなることが明らかになった。さらに円形の一次細胞パターンに二次UV光照射を行った際には、ゲルの弾性の違いによって、通常のガラス上とは全く異なる特異な細胞移動の挙動を確認することができた。これらの結果から、足場の弾性が細胞移動現象に与える影響について、重要な知見を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた近赤外(NIR)光により弾性が変化するゲルの開発の前段階として、まず弾性が異なるアクリルアミドゲルの作製およびそのゲル上での細胞培養、細胞移動の観察を行った。この際に、ゲル上にポリエチレングリコール(PEG)鎖末端に光分解基を有するポリマーを修飾し、UV光照射を行うことで、弾性が異なるゲル上に種々の形状の細胞パターンを作製することに成功した。ゲル上に様々な形状の細胞パターンを作製することは、既往研究例では難しく、本研究の成果は細胞パターニング技術において重要な進捗であると考えている。さらにこれらの弾性が異なるゲルにおいて、形状の異なる細胞パターンに二次UV光を照射したところ、それぞれの条件において、特異的な細胞移動挙動を示すことを見出した。これらの細胞移動挙動は、通常のガラス上においては見られない挙動であり、細胞移動の研究において、重要な知見を得たと考えている。以上を考え合わせると,当初の予定に対しておおむね順調に進んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
NIR光応答性ゲルに用いるために、ツリウム、イッテルビウムドープ型NaYF4粒子(UCNP)を合成する。さらにこの表面に光解離性の2-ニトロベンジル基を有する架橋剤とアジド末端ポリエチレングリコールのclick chemistryを用いて、アミノ基を表層に有する光応答性表面を有するUCNPを作製する。その後、NIR光応答性UCNPの表層に蛍光分子や抗癌剤を導入し、粒子表面における光応答的な結合の解離、および薬物リリースへの展開を目指す。さらにポリアクリルアミドゲルに、このNIR光応答性UCNP を架橋剤の一部として用いることで、NIR光応答性ゲルを作製する。このゲル表面にpoly-D-lysineをコーティングすることで、基板表面にアミノ基を有し、高い細胞付着性を持つ表面を作製する。その後、ゲル上で細胞培養を行い、NIR光照射により弾性を変化させながら、足場の弾性の違いが細胞の運動性や細胞接着にどのような影響を与え、細胞移動の変化につながっているかを明らかにする。
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