2013 Fiscal Year Annual Research Report
アフリカ産油国の経済構造に関する2つのパラドックスの検証
Project/Area Number |
25883006
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Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
中瀬 一恵 (出町 一恵) 神戸大学, 国際協力研究科, 学術推進研究員 (20709753)
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Project Period (FY) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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Keywords | 資源国経済 / 天然資源 / アフリカ |
Research Abstract |
本研究は,近年天然資源の開発によって急速に経済成長しているアフリカ産油国の経済構造に関する二つの逆説的な問題点を分析することを目的としている.H25年度の研究では,アフリカ産油国では外国直接投資の増加が経済成長を牽引しているが、他方で資本の逃避や流出も多いという点について,資本逃避額の推計とその規定要因の分析を進めた.天然資源に依存する発展途上国のデータを用いた分析より,資源国からの資本逃避は1980年代のように慢性的ではなく,むしろ突発的であることが示された.また,資源収入が増加すると資本逃避も増加することが示され ,資源収入の一部が国外へ流出していることを示唆する結果となった.ただし,外国からの借入が資本逃避と最も強い相関を持つという構図は1980年代から不変であることも示された.加えて,アフリカの資源国からの資本逃避は他地域の資源国に比べると少ない,という結果も得られた.この分析に関連し,アフリカ産油国を含む天然資源依存の途上国経済の貯蓄率と国内投資の関連性についても別個の分析も行った.計量分析の結果からは,天然資源に依存する途上国では,貯蓄が国内投資に振り向けられず国外へ流出していること,その一方で国内投資を国外からの直接投資に非常に強く依存していることが示唆された.以上一連の分析より,天然資源(原油)に依存する発展途上国の経済では資源収入の増大が見られる一方で,資本を国外へ押し出す圧力も非常に強い状況にある可能性が示された.特にアフリカの産油国では,資源開発産業以外への投資は未だ少なく,貧困や経済インフラの未整備などの問題が多く残るにも拘らず資源収入が国内へ投資されていないという問題点が明らかになった.さらに,資源開発向け直接投資は国際資源価格に大きく影響されることから,現在のアフリカ産湯国の経済成長は国際資源価格の変動に依存しているというリスクも明らかになった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H25年度は,当初計画していた研究目的に関し分析を行い,日本アフリカ学会やその他の国内研究会で報告を行うことで議論を深め,得られたコメントにより精度を高めることができた.またその分析結果をEconomics Bulletin (2014, Vol.34, Issue 2) および神戸大学経済経営学会の『国民経済雑誌』(2014年第209巻第6号)に投稿・発表することができ,研究計画をある程度達成できている.しかし当初はアフリカ資源国から流出する資本については,個人が国外の銀行へと預金を移す行動に代表されるような資本逃避と,事業の利益などが国内へ再投資されるのではなく個人や企業などの主体によって国外へと持ち出される資本流出の二つを想定して分析を進めていた.しかし,後者の企業などを通じた資本の流出についてはデータの制約と情報不足のために十分な分析を加えることが出来ず,分析の枠組みから削ることを余儀なくされた.この点については将来的に新たな手法や切り口で分析することが課題として残った.また,計量分析上の問題として,同じくデータ制約からアフリカの産油国のみに対象を絞ることが出来ず,他地域および他の天然資源輸出国も分析に含めることとなった.分析上の工夫によりある程度,アフリカ産油国の特性についても分析は行うことが出来たが,アフリカ産油国の経済に特有の問題点についても分析は今後の課題である.更に,H25においてH26年度の研究へ向けてデータ蒐集・整理をし,予備的な分析を行う予定であったが,3月末の段階で準備は十分ではなく,H26年度の早い時点で集中的に進める必要がある.
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Strategy for Future Research Activity |
H26年度は,計画どおりアフリカ産油国の経済構造におけるパラドックスの二つ目である,産油国による石油製品などエネルギー輸入による経済への影響についての分析を進める.特にH25年度までの分析の中では,アフリカ産油国の収入が国際資源価格に強く依存し,従循環的(pro-cyclical)な構造を持つことが明らかになっており,同じく国際資源価格により影響を受けるエネルギーを輸入に依存することにより,経済の不安定度が増すことが予測される.このような問題点について計量分析を行うことで,天然資源に依存した経済が抱えるリスクとアフリカ産油国の経済成長への問題点を明らかにする.この点に関し,H25年度の研究の中で,原油や天然ガスの産出国であるインドネシアやマレーシアの経験から興味深い示唆を得る機会があった.これらの国々はエネルギー資源を他国へ輸出する一方で,自国内の経済成長に伴うエネルギー需要の高まりといった問題を抱えている.本年度の研究は,特にこれらのアジア諸国を含めた他地域の資源産出国とアフリカ産油国との比較も行いながら進めたい.ただし,H25年度に分析を行ったアフリカ産油国からの資本流出と海外直接投資の流入に関連し,海外直接投資の「質」,すなわち資源採取産業への投資か,あるいはそれ以外の製造業分野などへの投資かによって,経済への影響に差異があるのではないかという,更なる分析の発展可能性が考えられるようになった.このため,H25年度の研究の発展・継続も視野に入れて分析を進めたいと考えている.
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