2013 Fiscal Year Annual Research Report
熱帯里山における生物多様性保全:アーボリカルチャーが結ぶ人と動物の関係に着目して
Project/Area Number |
25884001
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Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
笹岡 正俊 北海道大学, 文学研究科, 准教授 (80470110)
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Project Period (FY) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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Keywords | マルク / インドネシア / 里山 / アーボリカルチャー / 在来農業 / 生物多様性 / オウム / 野生動物との共存 |
Research Abstract |
本研究では、多様な樹木利用に特徴付けられる在来農業がみられるインドネシア東部マルク諸島を事例に、アーボリカルチャー(有用木本性植物の植栽・保育・利用)を媒介として生み出されている人間と野生動物の相互関係を包括的に明らかにすることを通じて、在来農業によって創出・維持されている熱帯の里山的景観における効果的な保全策について考察することを目的としている。 今年度は、文献調査を通じて、住民の将来の土地利用の選好や土地利用にかわる意思決定に影響を与える人びとの価値観を明らかにするための調査手法と、農業生態系における生物多様性保全に関する近年の議論について整理を行った。また、マルク諸島のフラッグシップ種(高い保護価値が認められている種)であるオオバタンが、原始林や、人為が加わることによって創出・維持されている二次林(Human-Modified Forests: HMFs)をどのように利用しているかについての既に収集済みのデータの解析をすすめた。さらに、2014年3月にセラム島中央部内陸山村で現地調査を実施し、将来の市場変化を見据えた住民の土地利用の変化や、土地利用をめぐる決定で住民が重視している事柄について、基礎的な情報を集めた。これらはすべて、本研究課題の目的である、人と野生動物が同所的に共存することを前提とした新たな保全モデルの提言につながる成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前記の通り、本研究の最終的な目的である新たな保全モデルの提示にむけて、文献調査による関係概念・議論の整理やデータ収集、既存データの解析は着実に前進しているといえる。 本研究課題では、オオバタン以外の種に対象を増やし、それらの種にとっての里山林の重要性を明らかにすることを試みていたが、オオバタンのトランセクト調査データの解析結果や、今年度3月に実施した現地調査で得た知見を踏まえて、研究の枠組みを順応的に修正した。具体的には、サイチョウとコウモリが好んで実を食べる里山林の樹木の結実時期にズレがあり、対象種を増やすには、数ヶ月にわたる長期の現地調査が必要であることが判明した。現実にそれを行うことは困難であることから、生息地評価はオオバタン一種のデータを用いて行うことにし、他種については聞き取りを通じて得られたデータをもとに、アーボリカルチャーを媒介とする人と野生動物の双方向的な関係を明らかにすることとした。 これまでの結果で、HMFsのなかでも、カカオ林やサゴヤシ林などは、オオバタンの生息地として不適地であると考えられる一方、広大な天然林に点在し、非集約的に管理されているフォレストガーデンとダマール採取林は、採餌や日中の休息の場として、重要な役割を果たしている可能性が高いことが明らかになった。しかし、調査地では、近年になって沿岸部と村とを結ぶ道路の建設計画が持ち上がり、住民たちは、市場へのアクセスが格段に容易になることを見越して、カカオの植栽地を拡大していることが、現地調査でわかった。現在のカカオ植栽ブームが今後どのように推移してゆくのか、他のHMFsがカカオ林に転換される可能性はあるのか、市場アクセスの改善が、従来の非集約的土地利用様式全体にどういった影響を及ぼすのかといった点は不明のままである。次年度では、これらの諸点を明らかにすることが求められる。
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Strategy for Future Research Activity |
前記の理由から、今後は土地利用意識に関するより詳細な情報収集を行う。そのための現地調査(調査期間は約3週間)を一度実施する(おそらく8月に実施)。そこで得られたデータおよび、前年度までに収集したデータとその分析結果をもとに、アーボリカルチャーを媒介とする人―野生動物の双方的な関係を包括的に描き、自然と文化の二元論に立脚した、「人間の生活域」と「野生動物の生息域」を分離する自然保護アプローチに代わる、新たな保全モデルを提示する。そして、その成果を英文学術論文にまとめ、投稿する。今年6月にブータン王国で開かれる「第14回国際民族生物学会」が開催される。その場で研究成果(中間結果)を発表し、そこで得られたさまざまなコメントを前記の投稿論文に反映させる。
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Research Products
(2 results)