2013 Fiscal Year Annual Research Report
近代ドイツにおける細菌学を通じた衛生観念の変容に関する研究
Project/Area Number |
25884008
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Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
村上 宏昭 筑波大学, 人文社会系, 助教 (70706952)
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Project Period (FY) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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Keywords | 衛生博覧会 / 細菌学 / コッホ |
Research Abstract |
本研究の目的は、不可視の病原体が感染症を惹起するという細菌学の知が、衛生博覧会を中心とする社会衛生学者の啓蒙活動を通じていかに当時の公衆の間に普及していったか、そのプロセスを再構成することにある。そこで、平成25年度は、当該研究目的に関する史資料の収集に力点を置いた活動を行った。 具体的には、ベルリンの州立文書館および連邦公文書館に所蔵されてある衛生博覧会に関するパンフレットならびに主催者の通信文書を調査することで、衛生博覧会の主催者側が設定していた理念および目的を確定することに努めた。また、これらの衛生博覧会における展示内容(各種感染症に罹患した臓器の模型や人体内部の構造を可視化した蝋人形、さらには罹患率や死亡率の推移を調査した統計結果を示した機械装置等)を写した写真資料等も渉猟し、主催者側が啓蒙を行うにあたってどのような方法を選択したかを把握するよう努めた。 さらにそれに加えて、本研究の目的が、こうした啓蒙活動を消費する一般公衆の感受性の変化も突き止める点にあることから、おもにヴァイマル時代に各種の公共施設で掲示された衛生に関する注意喚起文書等を調査し、そこから当時の公衆における病気感染への恐怖心の蔓延を再構成することにも重点を置いた。 以上の史資料から、本研究計画の支柱となる専門知の「流通」と「消費」という二つの側面、すなわち専門家自身がみずからの専門知(細菌学的発想)を通俗化する際に施す知の内容の改変と、その専門知を当時の公衆が既存の解釈格子を通じて咀嚼し理解する過程の二側面を同時に解明できるはずである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、初年度のうちに研究テーマに関する史資料の収集はその大部分が達成されたと思われる。今後、これらの史資料の分析を、専門知の「流通」と「消費」の二局面に分けて段階的に進めていく必要があるが、史料収集作業そのものが、申請時点で想定していた分量よりもはるかに大きな成果を挙げることができたことから、全体的には「おおむね順調」と判断してもよい。
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Strategy for Future Research Activity |
上記「現在までの達成度」で触れたように、今後の研究方策としては初年度に収集した資料を分析し、その結果を公表していくことに重点が置かれる。二年目にあたる本年度では、帝政期ドイツで最大規模の「ドレスデン国際衛生博覧会」(1911年)ならびにその先駆にあたる「国民病とその撲滅」(1903年)という、二つの衛生博覧会における専門家の戦略と公衆の反応を分析していくことになる。
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