2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
25884016
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Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石井 龍太 東京大学, 総合研究博物館, 特任研究員 (00712655)
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Project Period (FY) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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Keywords | 考古学 / 琉球諸島 / 災害 / 交流 / 集落跡 / 豚小屋 |
Research Abstract |
歴史災害と人間活動を追究するための実証的フィールド調査として、2月に石垣島安良村跡の発掘調査を実施した。悪天候下にもかかわらず多くの方々の協力によって調査は順調に行われ、過去に実施された2度の発掘調査成果と合わせて考察することで、歴史災害に関わると考えられる複数の層位を確認し、またその後の人間生活の変遷を明らかにする掘立柱建物跡、礎石建物跡などの遺構、遺物を確認することができた。特に2匹の最少個体数を数える幼獣を含むイノシシ骨と香炉、鉄片といった遺物の集積遺構や、その近辺で検出された焼土遺構は、単なる被災地の復興活動とは異なる内容を想起させ注目される。具体的には、津波災害後に人々がかつての村跡を来訪し、半永久的な居住がままならない中で一時的にとどまって海浜近くでの活動を行った痕跡と解釈することが可能である。遺物の検出、回収とともに土層のサンプリングも実施し、今後の理化学分析に備える資料蓄積を図った。 また家畜飼育の汎アジア的交流のあり方を探るための事例研究として、南西諸島の豚小屋遺構の民俗調査を実施した。本年中には奄美諸島(奄美大島、徳之島)、先島諸島(石垣島、与那国島)を調査し、総計20基以上の豚小屋遺構を確認しデータ化することができた。奄美諸島の豚小屋はより南の琉球諸島の豚小屋とは明らかに異なる形状、構造を呈することが確認された。一方で琉球諸島の豚小屋は広範に分布する一方でかなり共通性が高いこともうかがうことができた。これは両地域の文化的差異とそれぞれのまとまりを反映するものと考えられる。さらに豚小屋にまつわる聞き取り調査を実施し、それぞれの地域における豚利用の独自性についても多くの情報を獲得することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初計画にに盛り込んだ石垣島の安良村跡の発掘調査は、長雨と関東の空港を使用不能にするほどの積雪といった悪天候下にもかかわらず、調査メンバーをはじめ多くの方々の協力によって順調に行われ、津波災害に迫る複数の層位を確認し、またその後の人間生活の変遷を明らかにする住居遺構、遺物を確認することができた。また焼土の堆積や、獣骨、鉄片、香炉を含む陶磁器を集積した祭祀とも取れる特殊遺構の検出は予想外であったが、災害とその後の礎石建物の成立までの間に被災地を舞台に展開した、土地利用の変遷を考える上で今後も注視される内容を含むものといえよう。調査の準備過程では他の集落跡に関する情報を獲得することもでき、今後の集落間の比較調査にもつなげることが可能となった。 また家畜飼育の汎アジア的交流のあり方を探るための事例研究として、南西諸島の豚小屋遺構のフィールド調査を実施した。本年中に奄美諸島、先島諸島を調査し、総計20基以上もの豚小屋遺構を確認しデータ化することができた。特に奄美諸島における独特の豚小屋遺構を確認することができた点、そして地理的文化的に特色ある与那国島において琉球諸島の他の地域と共通性のある豚便所跡を確認することができた点も大きな収穫であった。またそれぞれの地域で実施した聞き取り調査によって、豚と豚小屋の社会的位置づけを確認できただけでなく2年目の調査に向けて新しい豚小屋遺構の所在に関する情報も多数入手することができた。中には韓半島など海外の情報も含まれる。 一連の研究の達成度は、当初の目的を十分達し、また次年度以降につながる成果も得ることができたと考え、当初計画以上の進展と評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の調査活動によって、多くの知見と資料を獲得することができた。一方で未解決の課題も少なくない。歴史災害に関する集落調査については、発掘調査によって獲得された遺構遺物のデータ分析と図面作成を実施する必要がある。また発掘調査によって予想された集落を襲った津波災害とその後の土地利用の展開を確定するためには、津波の堆積層を絞込み、さらに遺構との関係を確定する必要がある。今回の調査ではいくつかの候補を絞り込むことはできたが、層の内容物と堆積状況からの推察であることからまだ他の視点からの検証も必要であると考える。今回の調査では土壌のサンプリングを実施しており、本年度はその理化学分析を依頼する。具体的には津波災害研究で成果を挙げている珪藻分析を実施する。また堆積層の年代を決定するためには物質文化による年代決定だけでは不十分な部分があり、特に多く出土する琉球諸島の近世窯業製品はいまだ型式学的編年研究が進んでいない。そこで検出された炭化物の年代測定によって各層の年代的位置づけを検討する予定である。また集落跡は琉球諸島各地にまだ少なからず所在しており、今回の調査の準備活動の中でも関係する専門家から多くの情報が寄せられた。今後の集落調査に備える意味でも、可能な範囲で他の集落跡の予備調査を実施する。 またもうひとつのテーマであった豚小屋のフィールドワークについては、おおむね全体的な傾向が把握されつつあるもの未踏査の地域を残している。先島諸島南部および沖縄本島南部の豚小屋遺構が未着手であったことから、調査の範囲を広げることを考えている。さらに韓国やハワイ島にも個人飼育の豚小屋が存在すること、中でも済州島には豚便所も存在することから、海外の関連する遺構との比較調査も予定している。 本研究課題の終盤にあたる2014年度後半には調査成果を総合し、成果発表のための投稿論文とアウトリーチ活動を実施する。
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