2013 Fiscal Year Annual Research Report
中世末期世俗美術の展開―1400年頃の北伊・南仏間の芸術家と作品の移動をめぐって
Project/Area Number |
25884020
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Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
高木 麻紀子 東京藝術大学, 美術学部, 助手 (80709767)
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Project Period (FY) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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Keywords | 世俗美術 / 狩猟図 / 国際ゴシック様式 / 自然表現 / 1400年 / ロンバルディア / 南フランス / 西洋美術史 |
Research Abstract |
本研究の最終目的は中世末期の世俗美術の展開の諸相を解明することである。今回は1400年前後の北伊・南仏で制作された世俗主題の絵画作品、特に狩猟図がみられる作品に焦点を絞り、作品分析を基盤とした上でその実態と変遷を、場とパトロン、芸術家と作品の移動という観点からも考察することを目的としている。以下、研究計画の初年度にあたる25年度の研究実績を交付申請書に記した「研究計画・方法」に沿って報告する。 一、対象作例の実地調査と図版、資料の収集:対象作例の関連資料の収集、解読を進めた。また北伊・南仏での壁画調査、パリでの資料収集と素描調査を実地した。本課題に着目する背景には、報告者による14世紀末アヴィニヨンで制作された『狩猟の書』の挿絵研究があり、既に中世の写本挿絵を中心とした狩猟図の収集とカタログ化は進めていたが、本調査でさらに充実させ研究基盤を整備できた。 二、各作例のイメージの分類およびその変遷に関する考察:一に基づき各作例を図像および様式的観点から分類、分析し、その変遷過程を考察した。特に、一定数の現存作例を確認でき有益な図像分析が可能と判断された「騎馬での狩猟」図を中心に据えた。その結果、『狩猟の書』写本の挿絵における個々の動物描写(後脚で頭部をかくシカの表現等)や季節感の表現には、ミラノ、ヴェローナの宮廷周辺で14世紀末に制作された『タクイヌム・サニターティス』写本(本作の調査結果は研究発表の欄を参照)との親近性が認められるものの、一方で、「騎馬での狩猟」図に注目すると、構成要素および構図の点でより接近するのはむしろ壁画における狩猟場面であり、特にボルツァーノのルンケルシュタイン城の壁画(1380年代後半から制作開始)との留意すべき類縁性が明らかになった。場も媒体も異なる作例間での図像の類縁性の背景を探るため、今後は図像伝播の具体的な手段、南仏・北伊間の政治・文化交流の考察も進める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究対象とする作品の関連資料の収集を行うと共に先行研究を把握し、その上で新たな知見も得られつつある。25年度には、ほぼ予定通りに北イタリア(トレント、ブオンコンシーリオ城、鷲の塔、月暦壁画/ボルツァーノ、ルンケルシュタイン城、狩猟場面を中心とした世俗壁画装飾、等)、南フランス(アヴィニヨン、教皇宮殿、ガルド・ローブ塔、鹿の間/ソルグの宮廷場面を描いた壁画断片【アヴィニヨン、プティ・パレ美術館】、等)での実見調査、写真撮影、資料収集を行い、また、パリでも15世紀初頭の北イタリアで制作された動物素描の閲覧、写真撮影を行ったほか、関連資料、文献を入手することができた。これに基づいて特に狩猟図の整理、分類をし、図像分析のための基礎資料の作成を順調に進めた。ただし、本研究課題では研究対象となる作例が幅広く、イタリア、フランスの2国間での調査が必須であり、2年目に残りの研究対象である写本挿絵を中心とした実地調査、資料収集を主にフランスで敢行する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
研究推進に際し当初立てた計画からの特筆すべき変更はなく、2年目も予定通り進めていく。 研究計画の初年度にあたる25年度は、作品の実地調査と資料収集を中心に行い、それを基盤とした図像分析を進めた。2年目にあたる26年度は、初年度の考察を継続しつつ、蓄積したデータをもとに論考の集成を目指す。具体的な計画は以下の通りである。 一、現地での作品調査(2回目):本研究課題は調査の対象とする作例が幅広く、さらに未だ鮮明なカラー図版が公的刊行物に掲載されたことのない作例も多いため、複数回の実地調査が必要である。2年目は残りの研究対象である写本挿絵を中心とした実見調査を主にフランスで敢行する。 二、データ整理、図像分析の継続と、関連する研究領域の成果の受容:収集した各種資料の整理、狩猟図のカタログ化、それに基づく図像分析を継続する。また、特に2年目に取り組むのは、場とパトロン、芸術家および作品の移動に関する考察である。歴史学を中心とした隣接諸学科の成果を積極的に取り入れ、初年度の行った実地調査、図像分析から得られた結果と照らし合わせることで、より具体的に当時の世俗美術の制作状況の解明を目指す。 三、研究成果の発表:初年度の計画遂行によって得られた第一次成果と、26年度の計画遂行によって得られる考察結果をあわせ、具体的な発表準備に入る。中世末期の狩猟図の伝播の具体相が明らかになり、ひいては中世末期の世俗美術の発展の背景が浮かび上がると考える。
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Research Products
(2 results)