2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
25884022
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Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
金山 浩司 東京工業大学, 社会理工学研究科, 東工大特別研究員 (90713181)
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Project Period (FY) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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Keywords | 技術論論争 / 相川春喜 / 武谷三男 / 主体性 / 全体主義 |
Research Abstract |
戦時期における日本の技術論論争が持っていた哲学的含意、その射程に対する理解を深めるべく、戦後すぐの日本(1947~50年ごろ)における議論――ここでは戦時期技術論を引き継ぎつつも新たな展開が見られた――の経緯を再考した。とりわけ注目したのは、哲学者や自然科学者のみならず、文学者等の広範囲の人士を巻き込んで行われたいわゆる主体性論争と技術論が同時期にいかにかかわるようになっていったのかについてである。1946年、物理学者の武谷三男が、技術に関する新たな定義・把握法――技術とは「人間実践における客観的法則性の意識的適用」だとして定式化される――を提起した。武谷の議論は、梅本克夫らがそのしばらく後に強調した、史的唯物論あるいはソ連共産党の公式路線が主張する客観主義への違和感としての主体性の契機と親和性があるものとみなされ、田中吉六や星野芳郎らによって、主体性をその理論の中に取り込んだ技術論だとして称揚された。しかしながら、武谷三男自身が技術の定式化を出した時点ではこのような主体性という契機は重要視されておらず、武谷自身も主体性論争の中での自身の技術論との位置づけについては多くを語ってはいない。客観性の認識を重視し、当時の日本共産党の公式路線とも遠からぬものがあった武谷技術論は、これらに対抗しようとした梅本ら主体性論者からすればむしろ攻撃の対象となるものではなかったかとも考えられ、武谷技術論と主体性論との関係には奇妙なねじれがみられる。この点は主体性論争、技術論論争に関する現在までの諸研究が指摘してこなかったそれであり、今後の研究に置いて取り組むべき要点であると思われる。こうした要点を把握できたことを、今年度の実績として挙げておく。 このほか、戦前期技術論、就中相川春喜の思想と全体主義(政体としてではない、思想としての)とのかかわりについての口頭発表を日本語と英語で一回づつ行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
戦前期の技術論論争についてのみならず、戦後期にも視野を広げることによって、日本の技術論論争が主観―客観の統合、偶然性と必然性との統合といった戦前期の論者たちも手掛けていた問題構成を受け継いでいることを把握することができ、思想史上の大きな文脈の中に技術論論争を位置付けるという研究の目的に照らして、当初予想していた通り、あるいはそれ以上の手がかりを得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
武谷三男の技術論が主体性論争の中でねじれて受容されたということが「研究実績の概要」に記したとおり、明らかになってきた。こうなるに至った政治的な経緯を歴史的に検討する。また、戦後技術論論争が何を目的としてなされたものであったのか、その今日的意義はいかなるものであるのかについて考察、論文化することを考えている。5月には日本科学史学会の年会にて武谷技術論についての発表を行う予定である。
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