2013 Fiscal Year Annual Research Report
インドにおける手描き模様染色布にみられる「宗教的」意義の比較研究
Project/Area Number |
25884029
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
|
Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
松村 恵里 金沢大学, 国際文化資源学研究センター, 特任助教 (10711921)
|
Project Period (FY) |
2013-08-30 – 2015-03-31
|
Keywords | 宗教性 |
Research Abstract |
本研究では、南インドで製作される「伝統的」手描き模様染色布であるカラムカリと他地域で製作される模様染色布とを比較検討する事で、布に付与される「宗教性」と製作者たちにとっての「宗教性」の意味と価値を明らかにする事を目的とする。 その目的達成のために、平成25年度における調査計画では主に以下の点に重点を置いた。1、叙事詩や神話についてのデザインの意味や宗教布としての重要性の確認。2、製作者たちの宗教的実践と土着的な神への信仰のあり方の確認。3、製作者たちの有する「宗教性」と実際的な経済性の関係の確認。4、製作者たちの「宗教観」と対外的に主張する際に用いる「宗教性」との関係の検討。 これらの明確化のために、平成25年度の調査においては、12月22日から24日にかけてグジャラート州のアフマダーバードにて、「マーターニー・パチェーディ」という手描き模様染色布の工房において聞き取りを行い、さらに平成26年度の調査に備えた打ち合わせと事前調査を行った。また、12月25日から平成26年1月6日にかけてアーンドラ・プラデーシュ州の主要調査地であるシュリ・カーラハスティを訪れ、平成22年の調査から変化しているカラムカリ製作者の現状把握や、日常でのカラムカリ製作者の神や宗教に関する考え方を収集した。 以上の調査から、「伝統的宗教布」製作技術の高い知名度にも関わらず儀礼的機能を喪失しているカラムカリ製作において、製作者たちが主張する「宗教性」とは、儀礼的用途等により付加される類のものではなく、その「宗教性」を帯びた身体が製作するモノとしてカラムカリを捉えることによって、非儀礼的な「宗教布」という矛盾を乗り越え、実用布にまで宗教的価値を付与しうる記号といえるものではないかと推測される。本調査の実施によって、これまでの研究成果に加え、さらにカラムカリを検討するための新たな視点を得られたと考える。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本調査結果から、製作地/製作者の現状として以下の5点が浮き彫りになった。 1、版染め技法を用いるマーターニー・パチェーディの技術は高くないと捉えられがちであったが、プリント製作から手描きを用いた高品質の物を提供する者まで存在し、製作者たちも幅広く多様化している。2、シュリ・カーラハスティで製作されるカラムカリは既に儀礼性を失っているが、マーターニー・パチェーディは現在でも儀礼時には欠かせない要素としてカースト内外に認識されている。3、化学的な染料の使用が増加した上、質の良し悪しに関わらず「手描きだから」と高額な値を要求する者たちも出てきており、カラムカリの価値評価が不明瞭となってきている。4、シュリ・カーラハスティでは、自工房の「信用」を維持するために、より工房内の結び付きが強まり、他工房との交流の希薄化が進んでいると同時に、工房の特色が明確になってきている。5、自身に内在する宗教性を積極的に主張することに事に比して、「伝統的」宗教布デザインの追求やその用途における新たな議論は起こっていない。 これらの現状を把握できたことで、本研究の目的である、カラムカリと他地域で製作される模様染色布との比較検討が可能となり、叙事詩や神話についてのデザインの意味やその重要性についての理解も深めることができた。 ただしシュリ・カーラハスティにおいては、現状4に見られるように工房間の交流が希薄化し、一部の工房の移動などで工房間の距離も広まっていたために、聞き取りと参与観察のための十分な時間の確保が厳しかったことも事実であり、「布に付与される「宗教性」の意味と価値の明確化」のための製作者の認識については、一層の補充調査が必要であると考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は、8月にシュリ・カーラハスティにて重点的に補充調査を行い、また10月にはアフマダーバードにて、マーターニー・パチェーディがどのように儀礼で使用されるのかについての調査を行う。また、これらの調査を踏まえた上で、さらなるデータが必要な場合は12月に補充調査を実施する予定である。 今後は、製作者たちの帰属するコミュニティを背景としながら、彼らの宗教観の類似点・相違点についての調査を行い、それらの意味・価値について検討し、さらに、経済的な指標のみでは推し量ることができない、持続可能なモノの活性化の可能性にまで議論したいと考える。 そのために調査においては、製作者たちが対外的に打ち出そうとする「イメージとしての宗教性」と、日常の「宗教実践の中で培われた宗教観」を把握し、帰属コミュニティの一員として「許容できること/許容できない事」と「欠かせない事/受け付けられない事」を明確化する必要がある。これらを、聞き取り、参与観察、日常の宗教実践へ参加におけるデータ収集の際の主軸とすることで、製作者たちの宗教に対する認識を把握・分析し、当該地域内、および異地域間における、対外的な「宗教性」と内的な「宗教観」における類似の中の相違を明らかにする予定である。
|
Research Products
(1 results)