2013 Fiscal Year Annual Research Report
18世紀イギリスの陸軍兵士とその家族についての社会史的研究
Project/Area Number |
25884031
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Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
辻本 諭 岐阜大学, 教育学部, 助教 (50706934)
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Project Period (FY) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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Keywords | 近世イギリス軍事社会史 / 新しい軍事史 |
Research Abstract |
本年度は提出した研究計画に沿って、①定住法関連史料、②兵士の著作のうち活字化されているものを収集し分析を行った。具体的内容としては、①の史料に記録されている500人を超える兵士とその家族について、出身社会層・職業・識字能力・入隊の背景・除隊後の状況等の項目ごとに集計を行った。その結果、兵士の多くが平均的な中・下層民衆であったことが示され、彼らが文民社会と軍隊との間を自らの主体的な意思によって活発に移動している実態が明らかとなった。これは、18世紀のイギリス陸軍を貧民や犯罪者の巣窟とみなす伝統的な解釈に修正を迫るものであり、当時の人々が生計を立てるための一つの手段として軍隊勤務を捉えていたこと、彼らを通じて維持されていた軍隊‐文民社会間の人的つながりが18世紀の大規模な軍事拡大を可能にしていたことを示唆している。以上の成果についてはすでに論文としてまとめ、年度末までに然るべき学術雑誌に投稿を行った。 ②については、1の史料(兵士ウィリアム・トッドの従軍日誌)をもとに、兵士の従軍経験を多面的に考察した。とくに、軍内に多様なナショナリティが存在する中で、また異国の住民や異国の軍隊と接触する中で、兵士たちがいかなるアイデンティティを形成していったのかについて、トッドの記録をもとに検討した。同史料からは、「他者」との接触を通じてイングランド人、ブリテン人としての統合的な「われわれ」意識の生成が看取されると同時に、出身地域に対する強固な帰属意識も見出すことができる。この結果は、18世紀のイギリスにおいては、国際的に活動するエリートばかりでなく、軍隊勤務を通じて中下層民衆もまた、自国の複合性・帝国性を認識し、重層的なアイデンティティを育んでいった事実を示している。以上の点についてもすでに論文としてまとめ、こちらは『軍事史学』50巻2号(2014)に掲載される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」で述べた通り、本年度に予定されていた活字史料の収集・分析のいずれにおいても、当初の研究計画に沿って進めることができた。さらにその成果は二つの論文にまとめられており、どちらも次年度中の公表が期待される。 また、本年度末にはイギリスの国立公文書館で史料調査を行い、本研究に関わる手稿史料(主に18世紀の陸軍に関する行政文書)を収集することができた。これを本年度に用いた史料と組み合わせて分析することで、18世紀の陸軍兵士とその家族についてさらに踏み込んだ考察が可能になると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度も引き続き、提出した計画に沿って研究を行っていく。まず、本年度末の史料調査において収集した軍事行政文書の分析を行い、本年度に得られた考察をさらに深める。また、8月ないし9月に再びイギリスで史料調査を行い、研究計画に示した手稿史料(定住法関連史料およびジェイムズ・ミラーの回顧録)を収集し分析する。 得られた研究成果を、本年度と同様、論文の形にまとめ発表する。また、その中間報告を兼ねて、研究会・学会において口頭報告を行う(現時点では、2014年12月に歴史学会大会で報告を予定している)。
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