2013 Fiscal Year Annual Research Report
南北朝士大夫における家と国家の位置づけ―家訓・家伝・家学から―
Project/Area Number |
25884048
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Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
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Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
池田 恭哉 香川大学, 教育学部, 講師 (50709235)
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Project Period (FY) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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Keywords | 王通『中説』と家学 / 『中説』の版本 / 北朝の石刻史料 / 士大夫の家庭形態 |
Research Abstract |
本年度は、隋・王通『中説』を取り上げ、そこに見える「家学」への拘りに焦点を当てた読解を進めると同時に、王通の孫・王勃の碑文を読む研究会「隋唐精神史研究会」に毎月参加し、王勃による「家学」の継承の様子を検証した。その成果は、「王通と『中説』の受容と評価―その時代的な変遷をたどって―」として、『東方学』第128輯(2014年7月刊行)への掲載が決まった。この論考によって、王通の学問が如何に後世の王氏に継承されたのかという、「家学」の継承の在り方が明らかになった。また王通の学問が王氏だけに伝えられていた状態から、徐々に周囲の士大夫層にまで広まりを見せていく過程を追うことで、唐代から宋代に至るまで、王通と『中説』を通じて各時代の思想界が注目したトピックをたどり、王通と『中説』を中国思想史上に位置づけることに成功した。 『中説』の版本研究については、上海図書館や北京大学図書館、北京国家図書館などに直接足を運び、貴重な宋代・明代の各種『中説』の版本を実見できた。これにより、これまでの研究では具体的な指摘を欠いていた、阮逸注『中説』が広く一般的な版本として固定化するに至るまでの版本の系譜が、少しずつながら見えてきた。今後はこれらの調査で得た情報を整理し、成果としての公表を目指す。 いま一つの成果としては、京都大学人文科学研究所における研究班「北朝石刻史料の研究」に毎週参加し、北朝の生の史料とも言える石刻史料を注意深く読解することで、北朝に関する新知見を多く獲得できたことが挙げられる。これらは論文「北魏と杜預をめぐる小考」や「「桓山之悲」考―典故と用法―」の中に反映された。また翌年度は、その他の読書で得た知見と綜合し、南北朝士大夫の家庭形態をめぐる研究の成果公表のために活かしていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究はおおむね順調に進展していると思われる。その第一の理由は、本年度は王通『中説』を、改めて「家学」という観点から読解することを目標としていたが、それをひと通り終えられたからである。しかもそれだけには止まらず、王通の孫・王勃による「家学」の継承や、各時代における王通と『中説』の受容のあり様などについて考察し、それについて論文を発表し得たことは、当初の計画を上回る進度である言える。 また『中説』の版本研究も、調査が必要であった『中説』の所蔵機関にはすべて行くことができ、おおよその版本は実見できた。これも当初の計画通りである。 京都大学人文科学研究所での研究班「北朝石刻史料の研究」にもほぼ毎回出席し、そこで得た新知見は、二本の論文に反映された。また文史哲という分野の枠を越えた班員同士の議論の中で、様々に南北朝士大夫における家庭形態の様子についての新知見をも獲得することができ、その成果公表への基礎はできつつあると考える。 ただ王通と『中説』をめぐる論考の執筆に予定以上の時間を割いたことで、『礼記』大学における「修身→斉家→治国→平天下」という構図の、宋学以前・以後での捉え方の変化をめぐる考察、さらに家訓・家伝などの資料収集とその訳注作成には、あまり多く着手し得なかった。この点は翌年度への課題としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、今年度に収集した情報や新知見を整理し綜合し、論考の形で公表することを目指す。具体的には、中国の各種所蔵機関に行って調査した版本に関する情報を基礎に、これまでの『中説』版本研究を批判的に再検証し、『中説』の版本をめぐる系譜について新たな見解を打ち出した論考を発表する。 また石刻史料や、その他の正史などの読解を通じて得られた新知見を基礎に、南北朝士大夫における家庭形態の様子についても、学会発表などを行うことで、考察の深化を目指す。 加えて本年度はあまり進展させられなかった、『礼記』大学における「修身→斉家→治国→平天下」という構図の、宋学以前・以後での捉え方の変化をめぐる考察、さらに家訓・家伝などの資料収集とその訳注作成の二点は、より優先的に取り組む必要があると考える。具体的には、訳注を勤務校の論文集に掲載すること必須化するなどの方策をとる。
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