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2013 Fiscal Year Annual Research Report

19世紀フランス文学における物語の手法「予告」と「布石」:ゾラの作品を中心に

Research Project

Project/Area Number 25884058
Research Category

Grant-in-Aid for Research Activity Start-up

Research InstitutionNagoya University of Commerce & Business

Principal Investigator

中村 翠  名古屋商科大学, コミュニケーション学部, 講師 (00706301)

Project Period (FY) 2013-08-30 – 2015-03-31
Keywords仏文学 / ゾラ / 予告 / 布石 / 伏線 / 19世紀 / 草稿 / 生成研究
Research Abstract

本研究は、読み手の興味を喚起し維持する文学的手法を、エミール・ゾラの作品を主とする19世紀のフランス文学を通して考察することを目的とする。特に、物語の先の方で起こる出来事を前もって告げることによりサスペンスを生む「予告」と、後になってからその意味が明らかにされる「布石」という2つの技法に注目し、これらがそれぞれ初読時と再読時に果たす機能を分析する。平成25年度は、①予告・布石のテクスト内での分析②ジャンル間比較③草稿分析の3つのアプローチに沿って研究を行った。
まず、ゾラの作品中の予告の形式が、後期作品においては作家の思想の変遷に伴って変化することを『フランス語フランス文学研究103号』に掲載された論文にまとめた。
次に、予告・布石は、小説以外の芸術ジャンルにおいてもその形態に沿うように調整されているのではないかという観点から、ジャンル間のアダプテーション(翻案)というテーマを中心に研究を進めた。通常ゾラの小説は、本人あるいは演出家の手によって演劇化される場合が多いが、初期の戯曲『マドレーヌ』(1865)とその小説化『マドレーヌ・フェラ』(1868)は、戯曲から小説への翻案という珍しい例である。これら2作品の比較分析により、通常1度の公演を鑑賞する演劇と、再読が可能な小説という異なる芸術ジャンルによって、作家が予告と布石を使い分けていた可能性が高いことを突きとめた。
さらに、春期長期休暇中パリに2週間滞在し、フランス国立図書館およびゾラ・センターで資料収集を行った。この際、フランス国立図書館に所蔵されていない『マドレーヌ』の草稿の複写がゾラ・センターにあることが判明し、予告・布石が戯曲においてどのように組み込まれたかを探る生成分析が可能になった。
平成26年3月にはこれらの研究成果をまとめ、米国ニューオリンズ大学で開催されたAIZEN国際学会で口頭発表を行った。

Current Status of Research Progress
Current Status of Research Progress

1: Research has progressed more than it was originally planned.

Reason

平成25年度の研究は先述のように、大きく分けて3つのアプローチに沿って進めることを計画していたが、この計画は充分に達成されている上、予想以上の成果を挙げている。
9月から所属が変わり、年度半ばに移動があったため、資料調査を目的とするパリ滞在は当初の予定よりも短い期間になった(夏期長期休暇の滞在もあわせて一ヶ月を予定していたが、実際に行くことが出来たのは春期長期休暇の2週間のみである)。この短い滞在期間にも関わらず、フランス国立図書館に所蔵されていない、貴重かつ入手困難な『マドレーヌ』の草稿資料の複写を、ゾラ・センター所属研究者Jean-Sebastien Macke氏の協力により発見できたのは予想外の大きな収穫であったと言える。
パリ滞在のもう一つの成果としては、ゾラの長編小説『居酒屋』(1877)とその源泉となった短編小説『隣人ジャック』(初出1865)について、草稿分析およびジャンル比較の観点から考察した論文を、フランスのITEM(近代テクスト草稿研究所)の発行する学術誌『Genesis』に投稿した。この論文は査読を経て現在すでに掲載が決定しており、フランスにおける草稿研究者により一定の評価を受けたと考えられる。
また、小説と映画という2つのジャンルにおける予告の比較分析を行った論文が今年度、共著『Re-Reading Zola and Worldwide Naturalism』として出版された。
さらに8月末に京都大学で担当した集中講義では『マドレーヌ』を精読する際、受講者達にアンケートをとりながら進め、初読に関わる予告と再読に関わる布石の境界を探った。このアンケート結果をニューオリンズでのAIZEN国際学会で行った発表に反映させたところ、高い評価を得た。現在の研究課題を高等教育の場に還元するとともに、またその教育の場が研究内容に更なる推進力を提供した結果と言える。

Strategy for Future Research Activity

研究課題の最終年度にあたる平成26年度は、以下の3点を軸に研究を進める。
(1)前年度末にニューオリンズで発表した『マドレーヌ』と『マドレーヌ・フェラ』における予告と布石の比較の研究成果について、ゾラ・センターで発見した草稿をより緻密に分析に組み込みながら論文にまとめ、AIZENが発行する学術誌『Excavatio』あるいはフランスのゾラ文学研究会が発行する学術誌『Les Cahiers naturalistes』に投稿する。
(2)ゾラの長編小説のほとんどがまず新聞連載で発表され、のちに単行本として発行されたという事実に着目し、新聞連載と単行本という受容の形態が、初読と再読という行為に深く関連しており、それぞれに狙いを定めた語りの手法があったのではないかという仮説をもとに、ヴァリアント比較を行う。
なお、標準的な校訂版であるガリマール社のプレイヤード版には新聞連載時のヴァリアントが注に記載されているが、取捨選択されており網羅的でない上、初期・後期作品は入っていない。従って、対象箇所の新聞連載時の形態を、フランス国立図書館が公開する当時の新聞資料で調査する。さらに、単行本が発行される前にゾラが加筆修正した校正原稿はフランス国立図書館にマイクロフィルムの形で所蔵されている。以上より、作品本文の草稿、当時の新聞の掲載号、単行本のための校正原稿、単行本出版後の最終稿の、4 段階におけるヴァリアントを比較検討する。この調査のため、夏期および春期長期休暇中に渡仏し、1 ヶ月程度滞在しながら行う。
(3)本研究の展望を広げるため、ゾラ以外の作家における予告・布石を比較する。ほぼ同時代の作家であり、作品の構成・推敲に時間をかけたことでも有名なフローベール、および、短編小説と長編小説のジャンル比較という観点から、多くの傑作短編小説を残したモーパッサンなどを対象とする予定である。

  • Research Products

    (3 results)

All 2014 2013

All Journal Article (1 results) (of which Peer Reviewed: 1 results) Presentation (1 results) Book (1 results)

  • [Journal Article] ゾラの後期作品における「予告」: 転換期としての『三都市』2013

    • Author(s)
      中村翠
    • Journal Title

      フランス語フランス文学研究

      Volume: 103 Pages: 167-184

    • Peer Reviewed
  • [Presentation] ''L’annonce'' et ''l’ammorce'' chez Zola : du theatre au roman2014

    • Author(s)
      Midori Nakamura
    • Organizer
      AIZEN International Conference on Emile Zola and Naturalism
    • Place of Presentation
      University of New Orleans
    • Year and Date
      20140306-20140308
  • [Book] Re-Reading Zola and Worldwide Naturalism : Miscellanies in Honour of Anna Gural-Migdal2013

    • Author(s)
      Midori Nakamura, Carolyn Snipes-Hoyt, Marie-Sophie Armstrong, Riikka Rossi and contributors
    • Total Pages
      14
    • Publisher
      Cambridge Scholars Publishing

URL: 

Published: 2015-05-28  

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