2013 Fiscal Year Annual Research Report
ハーレム・ルネサンス期におけるコスモポリタニズム思想の展開
Project/Area Number |
25884060
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Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
佐久間 由梨 専修大学, 経営学部, 講師 (90712646)
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Project Period (FY) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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Keywords | モダニズム / 黒人文学 / ハーレム・ルネサンス / デレク・ウォルコット / 恋愛詩 / コスモポリタニズム |
Research Abstract |
本年度は、米国初の黒人芸術文化運動ハーレム・ルネサンス期において、コスモポリタニズムという思想を取り込んでいる文学作品を考察した。特に注目したのは、黒人知識人Alain Locke、黒人女性詩人Georgia Douglas Johnson、 Angelina Weld Grimke、Carrie Williams Clifford、黒人作家Nella Larsen、Jean Toomerなどの作品である。研究成果を二つの国内学会にて発表し、三つの研究論文として出版した。Johnson, Grimke, Cliffordらの黒人女性作家の詩は、近年に発掘されたばかりであり、その研究はいまだ発展途上の段階にある。学会発表および論文はそれぞれ、これまであまり研究されることのなかった黒人女性詩人の恋愛詩というジャンルに注目しつつ、いかにこれらの恋愛詩――特に愛やエクスタシーというテーマ――が、モダニズム期米国において、白人と黒人との二項対立に基づくカラーラインを超越した地平において、コスモポリタンな共同性を創造/想像する契機となっているかについて明らかにした。 さらに本年度は、カリブ海のノーベル賞詩人・戯曲家であるDereck Walcottの作品論を執筆し、西洋比較演劇学会発行のComparative Theatre Reviewにおけるウォルコット特集号に出版した。アメリカの奴隷制廃止論者David Walkerを登場人物とする戯曲『ウォーカー』は、アメリカにおける黒人ナショナリズムの伝統(黒人ナショナリスト演劇)と、カリブ海におけるコスモポリタニズムの伝統(混成演劇)とを対話的に上演するという実験性に特徴づけられる。本論考は、コスモポリタニズムという思想を、アメリカおよびカリブの思想的・歴史的文脈の双方から再検証する試みであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、交付内定が夏季休暇以降の時期であったため、夏季休暇中のアーカイブ調査を行うことはかなわなかった。とはいえ、本研究の重要な研究対象である一連の作家、Alain Locke, Georgia Douglas Johnson, Carrie Williams Clifford, Angelina Weld Grimke, Nella Larsen, Jean Toomer等の出版済みの小説や詩を精査し、来年度の研究への思想的・歴史的な土台を構築することができた。 研究成果を発表する場にも恵まれた。日本アメリカ文学会、専修大学人文学研究会で発表し、本務校の二つの学会誌(専修大学『現文研』、専修大学『人文科学研究所月報』)およびComparative Theatre Review、津田塾大学出版の所報(平成26年度に刊行予定)に出版することで、本務校の同僚および日本アメリカ文学会、西洋比較演劇学会の研究者からも貴重なレスポンスと批評を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度の夏季休暇を利用し、米国のハワード大学図書館のマニュスクリプト・ディヴィジョンと、モダニズム期の黒人作家ジョン・マセウスの作品と資料を現在まとまった形で手に入れることができる数少ない場であるフロリダフロリダA&M大学に行く予定である。 また本年度の研究の成果を二つのシンポジウムにて発表予定である。6月21日(土)の英文学会関東支部の「ユートピア/ディストピア再考――歴史、ジェンダー、共同体」というシンポジウムでは、ハーレム・ルネサンス期の女性詩人のユートピア思想を探る「黒人詩、ホモエロティシズム、ユートピア」という論考を発表する。6月27日(金)開催の専修大学人文学研究会では、黒人文学をめぐるシンポジウムを、一般の聴衆向けに公開する予定である。発表論考のタイトルは「アメリカ黒人文学における災害と絆」であり、第一の目的は、黒人文学・音楽に描かれる災害描写を考察すること、第二の目的は、災害という未曽有の事態の中で、いかにこれまでとは異なる共同性が生じる可能性があるのか、という問題について考えることである。両シンポジウムは、本研究のテーマであるコスモポリタニズムと密接なかかわりがある。というのも、ユートピア文学も災害文学もともに、いかに既存の共同性のオルタナティヴとなる新たなるつながり――ユートピア的共同体や災害後の絆――がはぐくまれるかという問に取り組むものだからである。このオルタナティヴとしての共同性は、しばしば、いまだかつてない多様性を含みこむ「コスモポリタン」な共同性としても創造/想像可能である。 春期休暇中には、これらのシンポジウムでの発表を、英語論文としてまとめ、海外の学会誌に投稿する準備を行うとともに、米国シアトルで開催されるACLA(American Comparative Literature Association)にて発表を行う予定である。
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