2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
25884077
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Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
村上 真樹 同志社大学, 高等研究教育機構, 助手 (50707164)
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Project Period (FY) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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Keywords | 美学 |
Research Abstract |
「見かけ」、「見せかけ」、「輝き」を意味し、両義的な価値を持つ「仮象(Schein)」の概念が美学史の中でどのように扱われてきたのかを、ヴァルター・ベンヤミンの仮象概念を軸に検討することを通して、「仮象の美学」を構築することを目的とする研究を行った。 そのために、ベルリンの国立芸術アカデミー内に設立されているベンヤミン・アルヒーフにおいて、未出版のベンヤミンの草稿類ならびに研究論文・書籍の閲覧を行い、ベンヤミンの仮象概念がどのように形成され、またそれらが先行研究においてどのように論じられてきたかについての文献学的調査を行った。また、現在のベルリンとベンヤミンが過ごした20世紀初頭のベルリンの地図を対照させながらのフィールドワークを行った。パリでは十数か所に及ぶベンヤミンの亡命時代の住居を、彼のアドレス帳や書簡に記された住所をもとに確認した。これらの現地調査によって、ベンヤミンの思索とその居住地域との密接な関係が明らかになった。彼の仮象についての思索は、ベルリンとパリという二つの近代都市がはらむ仮象的性格と結びついている。この成果については、9月に行われた同志社大学人文科学研究所第11研究例会において「アレゴリーとしての近代都市――ベンヤミンによるパリ、ベルリン」と題して口頭発表を行っている。 また以上のことを発展させて、仮象に重点を置いたベンヤミンの近代文化論を、現代日本の状況との比較の中で検証することを試みた。具体的には、ベンヤミンにおいて仮象との関わりの中で重視されている「アレゴリー」の概念を、現代日本における「キャラ」の概念と関連づけてとらえることによって、「キャラ」が担う肯定的な戦略性を明らかにすることを試みた。これについては、「ベンヤミンから見る現代日本文化」と題して、3月に発行された書籍『カルチャー・ミックス』(岡林洋編著・晃洋書房)に収録されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ベルリン、パリでの研究調査を通して、ベンヤミンについての多くの資料を閲覧することができ、またフィールドワークを通して彼の思索の歴史的あるいは地誌的文脈を確認することができた。それはベンヤミンの理論を他の事象に適用する際の基準点となりうるものである(2013年度は現代日本のキャラ論に適用した)。 また、多くの先行研究に当たることでベンヤミンの仮象概念の来歴を確認するとともに、幅広いジャンルの参考文献読解を通してその広範な適用可能性のための指針を得ることができた。 ただ、当時の映画受容状況に関してはいまだ未解明な点も多い。この点については引き続き2014年度の研究課題としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
2014年度は、これまでに得られた研究結果を綜合し、「仮象の美学」を構築することを目標とする。そのためには「仮象」の語が美学史においてどのように扱われてきたのかを検討すること、またそのような仮象のとらえられ方が具体的な芸術作品の上にどのように表されているのかを確認することが必要となる。このような作業を通して、従来の美学史を「仮象」の語を軸として再構成するとともに、人間がこれまで「見せかけ」という問題とどのように取り組んできたかを明らかにすることを目指す。こうしたかたちでの「仮象の美学」の構築は、コピーやまがいもののイメージがあふれる現代のメディア状況を考察する上でも重要なものとなると思われる。
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