2013 Fiscal Year Annual Research Report
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25884078
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Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
根津 朝彦 同志社大学, 人文科学研究所, 嘱託研究員 (70710044)
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Project Period (FY) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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Keywords | 桑原武夫 / 思想形成 / 戦後思想 / 『世界』 / 知的共同体 / 論壇 |
Research Abstract |
2013年度の最大の研究成果は、戦後日本の知識人である桑原武夫の思想史研究であり、 「桑原武夫の思想形成――幼年期から京都一中時代」と、「桑原武夫の戦後思想――ポルトレと戦後啓蒙期の批評を中心に」(近刊)の2本の論文にまとめた。 「桑原武夫の思想形成」では彼の幼年期、錦林小学校時代、京都一中時代を桑原の自伝的著作や、関連文献の証言から思想形成を位置づけ、後の共同研究のコーディネーターの資質に関する社交的でユーモアをもつパーソナリティと、すでに第三高等学校でフランス語を学ぶ前からその素養が認められたことを明らかにした。 「桑原武夫の戦後思想」では、桑原の代表作である「第二芸術」、『文学入門』、共同研究『ルソー研究』らが戦後初期に集中していることに着目し、その戦後啓蒙期に彼が発した戦後思想を検討した。具体的には桑原が戦後啓蒙期に発揮した批判精神は、戦争中の不満とともに、ある種の「悔恨」の表現に近い社会的責任感に根差すものであり、日本の現実を見据えた上で自ら明晰な言論の実践をもって克服しようとしていたことを明らかにした。以上の研究を通じて「戦後京都学派」の中心人物である桑原武夫の思想史研究に先鞭をつけたといっていい。 その他、「『世界』編集部と戦後知識人――知的共同体の生成をめぐって」では戦後の総合雑誌の中核を担った岩波書店の『世界』の編集内部と同誌に集った知識人の知的共同体の人脈・形成を明らかにした。そこでは同心会の関与、共産党員であった編集部の塙作楽など別の方向性がありえたが、編集長吉野源三郎が平和問題談話会を実現する過程で、『世界』の編集方針は明確となった。海外の情報を広く紹介し、オールド・リベラリストにも敬意を払う編集陣容、執筆者の一貫性を実現した吉野の役割を位置づけた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1年目では計画よりも早く桑原武夫の論文を執筆することでき、桑原武夫研究だけで2本の論文を完成させ、さらに戦後日本ジャーナリズムと知識人を結びつける論壇の中心軸にあった『世界』の論文を公刊することができたからである。
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Strategy for Future Research Activity |
桑原武夫の研究が進展したため、京都アカデミズムの研究を掘り下げるために「戦後京都学派」の代表的な知識人である多田道太郎の研究を進める。多田の自由主義思想を通じて彼の探究した戦後思想の研究を掘り下げるとともに、桑原武夫や「戦後京都学派」の一次資料の収集にもあたる。 戦後日本ジャーナリズムの思想史に関しては、香内三郎の資料を集めつつ、それを東京アカデミズムに媒介させるためにも、同志社大学の新聞学でジャーナリズム史の研究者であった山本明のジャーナリズム思想を明らかにする必要がある。同時代のジャーナリズム史の重要な記録である原寿雄(小和田次郎)の『デスク日記』に関するジャーナリズム史研究をも視野に入れたい。
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Research Products
(4 results)