2013 Fiscal Year Annual Research Report
サルデーニャ語の動詞における形態統語論の通時的研究
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25884091
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Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
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Research Institution | 滋賀短期大学 |
Principal Investigator |
金澤 雄介 滋賀短期大学, その他部局等, 講師 (70713288)
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Project Period (FY) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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Keywords | サルデーニャ語 / ロマンス語学 / 歴史言語学 / 文献学 / クリティック / 形態統語論 / Tobler-Mussafia の法則 / 情報構造 |
Research Abstract |
本年度の前半は、Condaghe di San Pietro di Silki(12 世紀)などを資料として、古サルデーニャ語におけるクリティックの出現位置の記述、および現代サルデーニャ語にいたるまでのクリティックの出現位置の変化について考察をおこなった。具体的には、Tobler-Mussafia (TM) の法則の「改訂版」によって、古サルデーニャ語の定動詞節のクリティック位置の体系的な記述を試みた。さらに、古サルデーニャ語には現代サルデーニャ語と同じ位置に現れるクリティックがあることに対して、古サルデーニャ語では TM の法則の消失がすでに開始していたと考え、クリティックの位置の通時的変化について基礎的な考察を加えた。具体的には、クリティックの出現位置の規則は Wanner (1996) が主張するように、「第 1 要素への接合」から「動詞への接合」への変化、そしてプロクリティックが許容される環境の拡大によって説明できることを指摘した。この研究成果はすでに学術雑誌にて公表されている。 本年度の後半は、Carte Volgari (1070-1226) におけるクリティックとそれが指示する目的語の重複、および Clitic Right Dislocation(クリティックをともなう右方移動)が生じる諸条件について、目的語の性質(人間/非人間、定/不定)と情報構造(トピックへのなりやすさ)の観点から記述をおこなった。 3 月には、カリアリ大学図書館に赴き、Condaghe di San Pietro di Sorres(14 世紀)の写本の電子ファイル、および関連論文を入手した。また次年度以降の、他のロマンス諸語を視野に入れた分析に向けて、ナポリにて古ナポリ方言の資料および関連論文の収集をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の目標のひとつであった、クリティックの出現位置とその通時的変化については一定の成果を得ることができた。また、この研究成果を発展させる形で、クリティックの重複に関する研究に着手することができた。そのような意味では、サルデーニャ語の形態統語論研究に新たな知見を示すことができたといえる。現地の図書館での所蔵調査においても、本研究に必要な資料を手に入れることができた。しかしながら、本研究は開始してから半年しか経過しておらず、動詞の統合的構造から分析的構造への移行など、まだ未着手のテーマもある。以上の理由から、「(2) おおむね順調に進展している。」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
さし当たっては、平成 25 年度から実施している、古サルデーニャ語におけるクリティックの重複 (clitic doubling) についての分析を継続する。具体的には、重複をこうむる名詞(句)の性質と情報構造に着目し、重複が生じる諸条件について明らかにする。この分析の成果を踏まえて、サルデーニャ語における語順の問題について、「動詞第 2 位置の規則」の消失・左方移動/右方移動・言語接触に焦点を当てつつ、考察をおこなう予定である。 上記の研究を遂行するにあたって、他のロマンス諸語における形態統語論の通時的変化についても考察する。同系言語において生じた通時的変化の実例に、サルデーニャ語における当該の現象について解明する手がかりが存在する可能性があるからである。とりわけ、スペイン語におけるクリティックの重複、イタリア語における左方移動/右方移動について重点的に考察をおこなう。またサルデーニャ語は、南イタリア方言と多くの形態統語論的特徴を共有している。昨年度に収集した、古ナポリ方言の資料も駆使しつつ、サルデーニャ語の言語特徴、およびロマンス諸語の中での位置づけを明らかにしたいと考えている。 本研究は、古サルデーニャ語文献に現れる文をもとに実証的な立場から考察を進めていくが、古文献から得られる言語情報には限界があり、サルデーニャ語の通時的研究には大きな支障となる。このような難点を克服するために、サルデーニャ島の内陸部に位置する集落に赴き、母語話者に対する聞き取り調査を実施する。具体的には、クリティックの重複と語順の関連、右方移動構文の韻律的特徴などについて調査する。
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