2013 Fiscal Year Annual Research Report
社会的排除と表現の現在的諸相:「良心的支持者」の立場に着目して
Project/Area Number |
25885029
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Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
長津 結一郎 東京藝術大学, 音楽学部, 助手 (00709751)
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Project Period (FY) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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Keywords | LGBT / クィア / 芸術表現 / フィールドワーク |
Research Abstract |
当該年度については主に、セクシュアル・マイノリティをめぐる活動への参与観察・インタビュー調査・アンケート調査に努めた。 インタビュー調査やフィールドワーク、アンケートを実施してゆく中で明らかになったのは以下の2点である。 ひとつは、セクシュアル・マイノリティの文脈で「当事者/非当事者」とする線引きの困難さである。当該分野においては近年、セクシュアル・マイノリティを「LGBT」、そこに関わる非当事者を「アライ」という呼称を扱うことで社会の中で可視化されつつある。しかしそのカテゴライズを厳密に紐解くと「レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー」の総称である「LGBT」という用語は、より幅広いセクシュアル・マイノリティの生の在り様を切り捨てているとも言える。一方「アライ」概念は、可視化への戸惑いからセクシュアル・マイノリティ当事者が隠れ蓑的に活用することもあるため、誰が「当事者/非当事者」か、という問いに一様に回答することは困難である。 またもうひとつは、表現活動としての専門性という観点からの「当事者」性、が大きく活動のモチベーションに影響を与えている。セクシュアル・マイノリティ非当事者の人々でも、何らかの表現活動への強い興味・関心が見られる場合にモチベーションは高い場合が多いが、セクシュアル・マイノリティを巡る社会的構造への関心は比較的低い。一方、セクシュアル・マイノリティ非当事者の中で、表現活動への専門性も高くない人々の場合は、自らの「生きづらさ」をセクシュアル・マイノリティに投影させて活動している様子が見受けられた。 非当事者としてではなく、何らかの要因による当事者性を備えた形で活動の推進力となる。それこそが「良心的支持者」の姿であると推察される。今後さらなる調査の積み重ねにより研究成果としてゆきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、非当事者と呼ばれる人々のなかでも、社会的排除の問題に関心を持ったり、そこで生まれる表現やコミュニティの様相に共感を覚えて活動に参画することで、活動全体に影響を及ぼしているような人々を「良心的支持者」という視角から捉え直すことで、社会的に排除される人々のためでも、表現を志す芸術の専門家のためでもない、多様な人々のかかわりにより埋め込まれている活動の価値について言及してゆくことを目指す。その第一歩としての成果を生み出す基礎的な調査を、セクシュアル・マイノリティ分野において結実させることがおおむねできていると考える。一方、インタビュー調査がまだ遂行できていない構成員がいるため、引き続き調査を継続しつつ、別の観点からの調査への視座を獲得することにも努めてゆきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで行ってきたアート・マネジメントの分野における研究手法を活かして今後も調査を続けてゆく。すなわち、現場の運営スタッフとして参画してネットワークを構築し、その関わりの中で炙り出される事象について、理論と照らし合わせながら検証してゆく。次年度においてはセクシュアル・マイノリティの活動のほか、障害のある人の表現活動の分野についても視座を広げ、引き続き「良心的支持者」の有り様について理論化することを試みてゆく。
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