2013 Fiscal Year Annual Research Report
空想と現実を区別するメカニズム:自己行為の時間的・空間的拡張
Project/Area Number |
25885090
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Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
杉森 絵里子 早稲田大学, 高等研究所, 助教 (70709584)
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Project Period (FY) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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Keywords | 記憶 / 自己主体感 / 統合失調型パーソナリティ |
Research Abstract |
人は行為を実行する際、無意識に「今、自分がこの行為を実行している」という感覚(自己主体感)が得られている。本研究では、自己主体感に障害があることが示唆されている統合失調症型パーソナリティを質問紙で測定することで、「今、自分が頭の中で(想像上の)声を作り出している」という自己主体感が、過去・現在・未来の時間軸において,空想と現実の区別を担うことを示すことを目的とした実験を記憶課題を用いて行った。実験は、Pre段階、学習段階、記憶テスト段階の3段階から成った。Pre段階では、各実験参加者が聞こえる声の大きさの最小を調べ、学習段階においてその声の大きさを「小音」として用いた。学習段階では、ホワイトノイズが流れる中、単語を1つ1つ視覚呈示し、その単語を読み上げる声が聞こえる時と聞こえない時を設定し、聞こえる時にはその声の大きさ(大音、小音)と、読み上げる単語の完全度(完全、断片)を操作した。記憶テスト段階において、学習段階で呈示した単語1つ1つに対して「学習段階で声が聞こえてきたか否か」をたずね、「聞こえてきた」と判断した場合には、その声の大きさと読み上げる単語の完全度についてたずねた。その結果、「聞こえてきた」と判断した場合には、実際に聞こえてきたか否かに関わらず、そして実際に聞こえた声の大きさや完全度に関わらず「大きい声」でかつ「完全な単語」として聞こえてきたと判断する傾向が高いことが明らかになった。さらに、統合失調症傾向が高い人(=自己主体感が得られにくい人)は、より「大きい声」で「完全な単語」として聞こえてきたと判断する傾向が高いことが明らかになった。つまり、「今、自分が頭の中で声を作り出している」という自己主体感が得られにくい上に、「大きい声」で「完全な単語」として読み上げる声を想像できることが、この結果に起因すると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2013年度に行った聴覚の記憶行動実験結果(学習段階で聞こえた声の大きさと、テスト段階における「あの時聞こえたか否か?」判断の関係)を基に、fMRI研究を進める予定であったが、2013年度の実験結果が芳しくなかったため、以下2つの点を改善して聴覚の記憶行動実験を行った。 1つ目は、前実験では大音と小音の音の大きさを固定していたところを、本実験では実験参加者ごとに聞こえる声の大きさの幅を測定し、その結果を基に大音と小音の音の大きさを設定できるようにした。2つ目は、前実験では単語が完全に聞こえる時と断片で聞こえる時を実験条件の中に入れていなかったところを、本実験では実験条件に組み込み2要因とした(声の大きさ:大音・小音、単語の聞こえ方:完全・断片)。その結果、実験参加者が「聞こえた」と判断する時には、実際に学習段階でどのような声で聞こえたかに関わらず「大音」でかつ「完全」に聞こえたと判断することが明らかになった。統合失調症傾向(幻聴傾向)とこの実験結果の関係について現在さらに検討中である。 fMRI研究を進められなかったという点では順調でないようだが、結果が芳しくなかったからこそ、自己主体感(「今自分は〇〇をしている」という感覚)と記憶(「あの時自分は〇〇を行った」という判断)の間での関連について深く検討するにいたることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
以下2つを柱に実験をすすめる。 1.fMRIを用いた聴覚記憶実験 研究目的:2013年度に行った実験結果をもとに、学習時に声を聞いている/聞こうと努力している時の脳活動と、その後のテスト時における「あの時聞こえたか否か」判断の関係について検討する。①聞こうと努力しているときには、実際に聞こえてこなくとも、後に「あの時聞こえた」と判断すること、②幻聴傾向が高い人は、無意識に聞こうと努力している結果、「あの時聞こえた」と判断する傾向が高くなることを、脳活動という視点から明らかにする。 2.アバターを用いた行動実験 研究目的:自己を投影しやすいアバターの条件について検討する。「自分の行為は他者の行為と比較して記憶成績がよい」という被験者実演効果を基に、自己を投影したアバターの行為は記憶成績がよくなるという仮説を立て、①アバターの行動するタイミングを自分が決定する時、②アバターの外見や装いを自分が決定する時、③アバターの行動内容を自分が決定する時といった条件のうち、アバターの行為記憶成績がアップする条件を探し出す。
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