2013 Fiscal Year Annual Research Report
身体的苦痛による社会統治――日本刑罰思想史における軍刑罰・植民地刑罰・死刑
Project/Area Number |
25885102
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Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
櫻井 悟史 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 研究員 (90706673)
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Project Period (FY) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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Keywords | 死刑 / 軍法会議 / 軍律法廷 / 戦争裁判 / 植民地刑罰 / 軍刑罰 |
Research Abstract |
本研究は、ある人AがBの身体に意図的に苦痛を加える行為と社会統治思想の関係を明らかにすることと、刑罰/罰とは何かというそもそもの問いを理論的に検討することを目的としていた。具体的には、第一に刑罰とは何か/死刑とは何かについての理論的検討に取り組むこと、第二に軍刑罰についての史料収集とアウトプットに取り組んだ。 2013年度の研究成果としては、第一にカントの『人倫の形而上学』を検討し、死刑それ自体を肯定することと、現行の死刑制度をほぼそのままの形で存置することは分けて考えられることを、死刑執行を担う者に焦点を当てて明らかにした、関西倫理学会2013年度大会における「誰が死刑執行を担うべきか――カント『人倫の形而上学』を手がかりに」報告が挙げられる。同報告は「死刑存置論と死刑肯定論――カント『人倫の形而上学』における死刑についての考察」と題して論文化し、大谷通高・村上慎司編『生存をめぐる規範――オルタナティブな秩序と関係性の生成に向けて』(生存学研究センター報告21)に掲載された。また、同内容を従来の死刑存廃論とあわせて検討し、より分かりやすく市民にアウトリーチするための論文を、ミネルヴァ書房から出版される予定の後藤玲子編著『福祉+α 正義』に「死刑――刑罰と正義」と題して執筆し、脱稿まで終えた。 第二に、軍刑罰については、防衛省防衛研究所戦史研究センターならびに国立国文書館を中心に史料収集を実施し、その成果を日本人の国際移動研究会にて「軍隊における刑罰観についての予備的考察」の報告、および戦争社会学研究会第5回大会にて「軍隊における刑罰についての思考様式――死刑を手がかりに」と題した研究報告を行なうことでアウトプットした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実施計画では、関西倫理学会での報告は同学会誌の『倫理学研究』に投稿し、『生存をめぐる規範――オルタナティブな秩序と関係性の生成に向けて』(生存学研究センター報告21)には、カントの死刑論が日本でいかに受容されてきたのかについての研究ノートを投稿する予定であった。しかし、後者については先行研究以上に有益なことがいえそうにないことが判明したため、予定を変更し、関西倫理学会の報告を生存学研究センター報告に投稿することにした。そのため、予定していた業績よりも少し少ない業績となってしまっている。その代り、同報告書の論文は、通常の2万字の論文よりも多めの3万字をこえる論文とした。 その他は研究実施計画に書いたとおりの成果を挙げることができた。すなわち、関西倫理学会での報告、生存学研究センター報告21への論文投稿、『福祉+α 正義』への投稿、軍刑罰についての史料収集、戦争社会学研究会における研究発表は、計画書にも書いていたとおりのものである。そのため、研究目的の達成度を「おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
2013年度、軍刑罰についての史料収集を行なっていた際に、当時の軍法会議の史料が日本各地の地方裁判所(東京、宮城、北海道、愛知、大阪、広島、香川、福岡)に所蔵されているらしいことを発見した。そこから得られる史料は膨大なものにのぼることが予想される。そのため、研究計画を一部変更し、植民地刑罰についての研究比重を下げ、軍刑罰研究に研究の重点をおくこととした。植民地刑罰研究への対応策としては、各地の地方裁判所に所蔵されている軍法会議の史料が、日本国内だけでなく、植民地等で実施された軍法会議の史料も含まれているとのことなので、そこから植民地と刑罰の問題を改めて問うこととしたい。 そのため、2014年度取り組む具体的な研究テーマは、以下の三つとなる。第一に、各地の地方裁判所に所蔵されているという軍法会議の史料を可能な限り収集し、アーカイヴ化すること。第二に、戦前から戦後にかけての刑罰思想の連続と断絶を明らかにすること。これは、戦後すぐに死刑執行停止運動を展開した「戦争受刑者世話の会」と、第一期死刑廃止運動を担った「刑罰と社会改良の会」の分析を中心に行なう。第三に、1948年3月に、日本国憲法下で一般刑法における死刑合憲判決が出されたことの意味について検討する。これは1948年12月にA級戦犯への死刑執行が行なわれたことが、死刑合憲判決にどう影響したのかについての分析を中心に行なう。このことは先行研究でも指摘されているが、具体的な検証はなされていないので、戦争裁判における刑罰にたいする知識人たちの意識に注目しつつ検討していく。
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