2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
25886003
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Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
猪股 直生 東北大学, マイクロシステム融合研究開発センター, 助教 (40712823)
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Project Period (FY) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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Keywords | マイクロ・ナノデバイス / マイクロマシン / バイオテクノロジー |
Research Abstract |
本研究の目的は,サブピコジュール(pJ)の熱分解能を持つ高感度熱量センサの開発である.25年度の研究実施計画は,高感度熱量センサデバイスの設計および作製(特にpn接合によるセンサの小型化,熱損失の低減)であった.センサデバイスの設計において,熱回路によりデバイス中の熱の流れを解析した.その結果,センサ形状が片持ち梁である場合,熱容量のみが存在するため,ジュールによる評価のみが可能であるが,両持ち梁である場合,熱容量と熱抵抗の両方が存在するため,ジュールとワットによる評価が可能であることがわかった.そこで,本研究のセンサ形状は両持ち梁形状とした.センサデバイスの作製は一般的な微細加工技術を用いて行った.センサは,長さ50um,幅3.0um,厚さ1.5um,マイクロ流路の高さと幅は各々15um,10umとした. 作製したセンサの,1. pn接合面の電気抵抗の温度依存性,2. 電流値揺らぎ,3. 熱入力に対する応答を評価した. 1. において,順バイアス電圧印加時の電流を25~135℃の温度範囲で計測し,I-V特性を評価した.センサの電気抵抗値は約345MΩ(順バイアス電圧0.9Vの時),温度依存性は5MΩ/Kであった.2.において,一定順バイアス電圧(0.9V)印加時におけるセンサの電流値揺らぎをアラン分散により評価した.積分時間が大きくなるに従って電流値揺らぎは小さくなり,積分時間が約7秒の時に最小値1.7pAをとり,その後上昇した.電流値揺らぎの最小値を元に熱分解能を算出すると,31.3pJとなった.3.において,センサの一端を0.13mWの強度を持つレーザを照射して加熱すると,そのon-offに合わせてセンサの電流値が5pA変化した.この電流値変化は0.03mWの熱量に相当する.この結果より伝熱効率は23%と推測できる.この時の応答時間は0.2秒であった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
25年度の研究実施計画であった高感度熱量センサの設計および作製は,上記報告の通り,設計論と作製プロセスが確立された.それらを元に作製されたセンサデバイスの特性の評価(pn接合面の電気抵抗の温度依存性,電流値揺らぎ,熱入力に対する応答)を行った.現状のセンサの熱分解能は,31.3pJであった.サブpJには2桁程不十分な値である.熱分解能はセンサの熱容量に比例するため,センサの大きさを小型化することで更なる高感度化が期待できる.現状の作製プロセスの一部をフォトリソグラフィから電子ビームリソグラフィに変更することが可能であり,その他はそのまま適応することができる.例えば,センサの幅,厚さ,長さを各々1桁ずつ小さくすると,熱分解能は3桁向上する.センサの各次元を1桁小さくすることは十分可能であり,サブpJの熱分解能への道筋を示すことができた. 更に,次年度の計画であった計測系の構築にも既に着手している.着目した点はノイズの低減である.センサの大きさが小さい故に,出力される信号も小さく,ノイズの低減はセンサの高感度化に大きく貢献する.本年度はノイズを低減させながら,出力信号を増幅し,計測を容易にするために,電気回路の設計および作製も行っている.以上より,25年度の計画であったセンサの設計および作製を完了し,サブpJの熱分解能の実現に向けて知見を得,道筋を示すことができた点,さらに計画を前倒しして,計測系の構築に着手した点を評価し,現在の達成度を「当初の計画以上に進展している」とした.
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Strategy for Future Research Activity |
次年度の研究計画は,計測系の構築と,熱センサの修正,そして生体試料への応用である.危惧されていたバイアス電流によるセンサの加熱も,センサ表面の分子吸着による影響も特に確認されていない.今後は,既に着手しているノイズを低減する計測系の構築,センサの小型化による更なる高感度化を主に研究を遂行する.必要に応じて,真空封止によるシステム全体の小型化や気液界面を用いた試料の断熱を行う.ノイズ低減において,バックグラウンドノイズを低減することに着目し,センサの他にリファレンスセンサを設け,その差分を検出することを計画している.さらに,電気的な配線や電気回路においても,外乱が入らないように最適化し,センサの高感度化に努める.センサの小型化に関しては,上記で述べたとおり,フォトリソグラフィから電子ビームリソグラフィに変更することで,センサの各次元を1桁小さくすることができる.熱分解能の3桁の改善は不可能ではなく,pJの熱分解能は非常に現実的な値である.しかし,センサへの伝熱効率が課題となることが新たにわかった.センサが小さければ小さいほど,マイクロ流体チップ内のマイクロ流路と微小真空チャンバーを隔てる壁を通して損失する熱の割合も大きくなることがわかった.作製プロセス上のアライメント精度の問題から,この壁の幅を小さくすることは難しく,特殊な構造や材料を用いて改善することを検討している.さらに,完成したセンサデバイスを生体試料に応用し,微小発熱挙動観察を行い,本研究の目的を達成する.
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