2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
25887014
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Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
金澤 拓也 独立行政法人理化学研究所, 階層縦断型基礎物理学研究チーム, 研究員 (10713224)
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Project Period (FY) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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Keywords | 量子色力学 / 汎関数繰り込み群 / カイラル相転移 / 強磁場 |
Research Abstract |
高温・高密度・強磁場といった極限条件下の量子色力学(QCD)の物理を解明することが本研究の主目標である。今年度は強磁場中のQCDにおける対称性の破れについて研究した。QCDスケールに匹敵する強い磁場は初期宇宙や重イオン衝突、コンパクト天体において生成されると考えられ、それがQCDの非摂動的なダイナミクスに与える影響を理解することは重要な問題である。今年度の研究では、汎関数繰り込み群を用いて軽いパイオンの異方的な揺らぎを取り入れた計算を行い、ゼロ温度および有限温度における磁場中のカイラル対称性の破れを調べた。過去に行われた他の理論研究では、パイオンの揺らぎが全く無視されているか、あるいは考慮されても等方的な揺らぎとして近似されていた。しかし、カイラル極限近傍では荷電・中性パイオンは軽く、その揺らぎは大きい。また強磁場のため、中性パイオンでさえその揺らぎは強く非等方的になっている。このため従来の取り扱いは必ずしも正当化されない。本研究ではカイラル模型に汎関数繰り込み群を適用し、パイオンの波動関数くりこみまで陽に変数として取り込むことで上記の点を克服し、各物理量(パイオンの速度・崩壊定数・質量、クォークの動力学的質量、カイラル相転移温度など)の磁場および温度への依存性を明らかにした(論文として出版)。その結果、低温では磁場の増大とともにパイオンの速度や質量(screening mass)は異方的になるが、一方、高温ではその効果は抑制されることがわかった。また相転移温度は異方性な揺らぎによってわずかに影響を受けるが、しかしその磁場依存性は他のモデル計算と同様であり、格子シミュレーションの結果と合致するには至らないことがわかった。これらの結果は中性子星の研究へ新しい視点を与える。また今回用いられた手法は他の異方的な物理現象へも適用できる可能性があり、更なる研究が求められる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究課題の一部について順調に結果が得られ、論文も一編出版された。
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Strategy for Future Research Activity |
2013年度に得られた理論的な枠組みを生かして、磁場中の様々な物理量を計算してゆく。また、中性子星は有限クォーク密度環境であるため、理論計算を有限化学ポテンシャルに拡張することも一つの自然な拡張として考えられる。また R^3 x S^1上のQCDについても解析計算を進め、化学ポテンシャルを入れたときの系の振る舞いや対称性の自発的破れを明らかにしていく。
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